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「あ、猫だ」
さあさあと、細い雨が降っている。生徒会の皆が交代で担当している業務(窓拭き)をしていると、木の下に何かが見えた。
根本に、段ボールらしき物がある。

「安形、起きろ安形」
窓を拭くのを一旦終了し、椅子に座って鼻提灯を膨らますだらし無い我が生徒会長の肩を叩いた。


日の生徒会執行部


それから少しして、それぞれの傘を持って雨が降りしきる中を二人で歩く。

「あー…なんだってオレまで外に出すんだよ」
「暇そうにしてたのは安形だけだろ」
「寝るという業務をこなしてたけど」
「屁理屈言わない」
うすら白い息を吐きつつ二言三言交わしたところで、窓から見えた大きな木のすぐ側まで来た。その少し先からは、にゃーにゃーと小さな鳴き声が聞こえる。そこに向かって草を掻き分けながら近づいて行けば、薄汚れた小さな箱があった。

「いたー」
みー、とタオルに包まれた小さな子猫が 雨に濡れて震えている。片手でも持ち上げられるくらいに軽い猫を、両手でやんわりと包んだ。

「いたー、って、お前ソレ拾ってどうすんの」
「んー、別にどうするってことはないけど…」
傘を肩と首で挟みながら段ボールを持てば、不意に傘を取られ安形が自分のそれをオレにかざしてくれる。

「生徒会室に持って帰んのか」
「うん、死なせるわけにもいかないし」
な、と箱の中にいる猫に笑いかけると 返事をするかのようにか細い鳴き声が返ってきた。



「む、」
さすがに雨で冷えたままそのままにもできまいとシャワーで猫を軽く洗って元の活動場所に戻ってきたオレ達に、椿ちゃんが怪訝そうな顔を向ける。

「なんですか、その箱は」
そう言って歩み寄り、睨みつけるようにしながらオレの両腕の中を覗き込んだ。猫ですか、腕を組んでと小さく唸った椿ちゃんは 再度オレ達に事情を説明してくださいと促すような視線を向ける。

「外にいたんだ」
「……校内への動物持ち込みは禁止です」
「えー、いいじゃない」
今回くらいは許してよ、と段ボールを抱え直して言えば、ただでさえ近かった眉毛と眉毛の間が更に縮まった。

「いくら先輩と言え、特例は認められません」
「えー…」
「まあまあ、いいじゃねえか今日くらい」
「…っぐぇ!」
カッチカチの椿節を喰らい、拗ねるように口を尖らせたオレの首に安形が腕を回したと思えば、それに思い切り引っ張られ首が締まる。カエルの鳴くような声の後で、自分が置かれている状況を把握した。

「っおい!何してんだお前っ」
「ここはオレに免じて、な?」
安形の腕の中で必死にもがいても、オレより筋肉があると思わしき人物からは そう簡単には逃れられない。安形に物を言われるとさすがに抵抗ができなくなるのか、じゃあ…と椿ちゃんはあっさりと動物の連れ込みを許してくれた。

「どうかなされたのですか?」
「…猫か」
騒がしくなったオレらの周りには、いつの間にかミモリンとデージーちゃんも集まっていた。拾ったんだよと事情を説明して応接用のローテーブルに箱を置き、みんなで上から覗き込む。
にゃー、と顔を肉球で顔を擦る感じが可愛くて、一人猫を抱え上げた。ぬくぬくと温かくて小さな命に改めて感動しつつ、顔を猫にくっつける。鼻と鼻を合わせたりして戯れていると、不意に唇を舐められた。


「あは、唇奪われちゃったー」
「まあ」
笑いながら言うと、ミモリンが優しい雰囲気で笑って返してくれる。それと同時に、すぐそばから負のオーラが漂ってきた。
口を曲げたままそのオーラを放つ方に顔を向ける。その動きは、錆び付いたロボット同然だったと思う。
視線を向けた先には、やはり安形が不機嫌そうに顔を歪めていた。

(…うわ、まさか)

そのまさかだった。


「おい」
「え、は、……んっ、」
ぐいっと詰め寄る安形に対して、同じ極同士が退け合うような形で背中を反らせるオレ。肩を掴まれたと思ったら、そのままの勢いでキスをされた。


「…っ」
目を見開いて安形を見ると、未だ機嫌の悪そうな顔でオレを見下ろしている。少しだけ遠くで、困ったような怒ったような椿ちゃんの声が聞こえた。
何故かデコピンされて、赤くなった額を押さえて見上げれば、オレを睨む安形がいて。

「動物にまで愛想振り撒いてんじゃねぇよ」

…いや、オレは別にそんなんじゃないんだけど!

「なに動物相手に嫉妬してんだバカ!」
「うるせぇ」
ぐあーと一気に上がる体温と比例して、嬉しいとかそうゆう馬鹿げた気持ちすら沸き上がってくる。

「ここは生徒会室です!」
「KIS(公共の場でいちゃいちゃすんな)」
「あああああ、オレは全然本望じゃなくてね!?」
「ミチルさん、顔が真っ赤ですわ。熱でもあるのでしょうか」
掛かり付けの医者に診ていただきましょう、と携帯を取り出したミモリンの動きを制止しつつ猫を抱えながら椿ちゃん達の誤解を必死で解く。

「おいミチル、オレにも構いやがれ」
「うるさいなお前は!」
「ひっでー」
その間にも鬱陶しく纏わり付く安形を退治するのも一苦労だった。


今日の生徒会執行部は、+αでいつも以上に騒がしかったです。


end


でへへ

榛葉さんが猫にちゅーされたところからのくだりを書きたかっただけww
安形が嫉妬深すぎる気もしますが、まあそれは置いておきましょう←




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