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「わっ!」

週に一回程の頻度で行われている合同の授業は、ミチルが所属しているクラスと一緒になることが多く、それなりに楽しい時間である。
数人がチームとなって対戦していたバスケの途中で、ミチルと思わしき人物が悲鳴を上げた。


かい重み


「いったー……」

声のした方向に目を向ければ、そこには既に人だかりができている。中心で痛そうに足を摩っている人物は、やはり自分の恋人だった。

「榛葉くん大丈夫ー?」
「足捻った?」

あちこちから飛んでくる質問に笑顔で答えていたミチルの近くにいこうと、人込みを割って入れと 額に汗を浮かべたそいつがオレを見上げる。
どうしたの?と言いたそうな目で見たってもう遅い。微笑みともへらへらとも取れる笑顔を向けるミチルに歩み寄ってその場に屈んだ。捻挫か、と呟きつつ赤くなっている足首を掴めばぴくりとそれが反応したのがわかる。

「アホだなお前」
「……」

薄く笑ったオレとは対照的に、少し不機嫌そうな顔で俯くミチル。その短いやり取りの間にも、周りからの心配げな目線は去っていかなかった。

「体育委員、ちょっと保健室まで連れてってやって」

どこぞの体育委員にそう告げた体育教師の指示に従い、人込みから男子生徒が出てくる。するとそいつは、ミチルの顔色を伺いながらもそこにしゃがみ込んだ。
体を支えようとしたのか立たせようとしたのか、ミチルの肩に体育委員の手の平が被さる。自分の仕事を真っ当しようとしている、それはわかっていたものの、反射的にその手を払っていた。


「………安形?」
「…オレが連れてく」

呆然とオレを見上げるミチルに屈んだまま背を向ければ、自分が置かれている状況を飲み込んだらしい当事者がえ、あ、とあからさまに戸惑い始める。早く乗るように促すと、焦らすようなスローモーションの後 背中に重みと温もりが乗った。
先生に軽く交渉をすれば、渋い顔で保健室へと送り出される。静まり返る廊下に、自分の足音だけが響いた。もうひとつあるとするならば、ミチルの心臓の音ぐらいだ。

「ご、ごめん安形…オレ、重くて」

申し訳なさそうな声色が後ろから聞こえ、首に回された腕に力が加わる。尚もうなじ付近で感じる吐息が、髪を揺らした。

「そら男なんだから当たり前だろ。お前何キロだっけ」
「54キロです、けど」
「全然許容範囲内じゃねえか」
「は?」
「オレの中でお前は軽い方に入る」
「あ、ありがとう」

まあ、健康には気を使ってるから、と誇らしげな雰囲気も入り混じったそれに、口角が上がった。

「…さっき、」
「あ?」

よっ、とずり落ちてきたミチルの体を立て直した時、またすぐ後ろから声が聞こえる。うなじに当たっていた息が耳元に移動して、頭の位置がズレたのがわかった。

「委員がオレに触ろうとした時、手ぇ払っただろ?」
「…ああ、まあそうだな」
「あれ、なんか、すごい嬉しかっ…た」

緊張からか、途中で言葉が切れる。ほんの数秒喋っただけで喉が渇いたらしく、ごくりと唾を飲む音が聞こえた。肩口に埋められた顔が、熱を持ちはじめる。

「喜んでいただけたなら何よりで」

目的の保健室はもう目の前だ。
先生がいない場合、どんな悪戯をしてやろうかと考えながら一歩また一歩と歩を進めた。


end




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