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「榛葉くん、おはよー」

「おはよう」

朝の8時を少し過ぎた頃、ちらほらと登校してきたクラスメイトで教室が満たされていく。その中ではオレも例外ではなく、笑顔で挨拶をしてくれる女の子に返事をした。
初めてのことだらけだった中学一年生から二年生に進級したオレは、今までとなんら変わりない生活を送っている。

ただ一つ、心境の変化を除いては。


まには



学年が一つ上がって半年程が経過し、俺は同じクラスに気になる人ができた。……安形惣司郎、男だ。
気になるというか、…もう少しシャキッとしてほしい人No.1の人なのだか、この際気になる人で統一しよう。
クラス替えの結果、目新しい面子が揃う中で唯一曖昧ながらにも名前を知っていたのが彼だった。入学当初から、天才だなんだと騒がれていたのを覚えている。

気になり始めたのは、くじ引きで隣の席を当てて少ししてからだった。気怠げに浅く腰掛けた椅子は周りより長けた身長に伴った長い足を持て余させるには十分らしく、だらりと投げ出された足が非常にだらし無く見える。
寝癖もまあー酷い。あれをこの手で七三分けにしてしまいたい。


一日中机に突っ伏されていては、自然と首がそっちに回ってしまうのが性……なのだろうか。ぐーすかと寝息をたてるのを見て、いつ勉強をしているのかと不思議に思った。
カチカチとシャーペンを軽く鳴らして、板書を写しているフリをしながら隣の席を覗く。
授業中は常に寝ているクセに、一学期の期末テストでは一位をとっていた。一年の頃から彼とクラスが同じだった人が言うには、一年間 テストで一位以外をとったことがないらしい。


そんなこんなで、更に一ヶ月が経った。その間にもオレの目線は安形惣司郎を追っていて、日を増すごとに自分の中でその存在が大きくなるばかりだ。
何がどう気になるか、彼のどこに魅力があるのか、正直言って自分でも全くわからない。今日もほら、背中を丸めていびきをかくもんだから 先生に教科書で頭を叩かれている。
むくっと起き上がった彼から焦って視線を外してみると、後頭部に隣からの視線が突き刺さった。

10分経っても20分経っても離れていかないそれに諦めがつき、首を彼に向けて小声で喋りかける。

「…俺、何かしました?」

同学年なのに敬語を使うというのもおかしな話ではあるが、鋭いビームで後頭部に穴が開くよりはマシだった。大きな欠伸をかいた後、今度は言葉を発するためか また口が開かれる。



「お前って、オレのこと好きなの?」


「…………は?」


頬杖をつき言い放たれた言葉に、俺はただ固まることしかできなかった。


*****


「なんて、中学ん時あったなー」

あー懐かしい、と目を細めて思い出に浸るミチルは、オレの腕の中で麦茶を啜っている。目の前の肩に顎を乗っけて適当に頷いた後、オレもミチルと同様に麦茶を啜った。

「あの時の安形はオレに劣らずナルシストだったんじゃないかな」
「自惚れてたんだよ」

まあ、自惚れるも何も 結局ミチルはオレのことを好きになったんだからもうそれは時効だ。
そもそもあれは

「お前が毎時間横からガン見してきたのが原因だろうが」

毎日熱い視線を食らわせられて、ロクに居眠りもできなかったのを覚えている。そのことをミチルの耳元で呟けば、急上昇していく体温を感じられた。


end




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