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「ミチル」
「うわ、」

いつもならまだワイワイと騒がしい教室は、次の時間が体育の為、更衣室に着替えに行く人が多数で そこにはオレしかいない。
ジャージが入った鞄を手に取った時、後ろからぎゅう と抱きしめられた。人気のない教室で、妙に低い声が響く。俺より少し高い背と、その声で すぐに相手はわかった。

「…なに、安形?」


中に愛


「驚いたか?」

少し顔を傾けて確認すると、そこにいるのはやっぱり安形で
ニヤニヤとオレに問い掛けるのに、ムッとしてしまう。

「驚かないよ、こんなので」
「それもそうだな」
「てゆうか、離れて」

誰かに見られたりでもしたらどうすんの、と腰に回った腕をどかそうとすれば 耳を軽く噛まれた。

「うわっ、なんだよ何してんだよ離せ馬鹿」

むやむやと甘噛みされると、背筋が粟立つのがわかる。何がしたいのかが不明なまま、安形の耳を思い切り引っ張った。

「いででで、ちょ、悪かった悪かった!耳、ちぎれるから!」

赤くなった耳を押さえながら離れた安形も、ジャージが入っているであろう鞄を肩から下げている。

「あぁ、今日は安形のクラスと合同だっけね」
「早く着替えちまわないと遅れるぞ」

行こうぜ、と言って踵を返した安形に

「お前となら、遅れてもサボってもいいよ」

なんて、柄にもないことを小さく呟いてしまった。勿論、前を歩くその人には聞こえないように。



更衣室につくと、まだ何人かは着替えていた。空いていた二つのロッカーに荷物を入れて、制服を脱ぎはじめる。
他愛もない話で幾度か笑って、安形がシャツを脱いだ時 不意に後ろから声が飛んできた。

「あれ?安形、お前」

振り返ってみると、短髪の男が立っているではないか。話し掛ける口調からして、安形のクラスメートだろう。既にジャージに着替えていた彼は、筋肉質な安形の背中を凝視した。

「あ?なんだよ」
「いや…背中、何したの?」

顎に手を当ててそう言った彼につられ、回り込んでオレもその背中を見る。
瞬間、体が凍りついた。
そこにあったのは、背中一面につけられた、無数の引っ掻き傷だった。

「………」

いや
いやいやいや
これは、もしかしてもしかしなくても

引き攣った笑みを浮かべる口元を、必死に右手で覆って隠す。背中には、冷や汗が一滴流れた。

「すげぇ痛々しいんですけど。……猫?」
「ああ、これはミチ「うわああああぁああ!!!」

今度は、オレに親指を向けて全てを物語るようなことを言おうとした安形の口を物凄い勢いで塞ぐ。
馬鹿かこいつは!

「みち?」
「あはっ、あはははは!なんでもないから!」

猫に引っ掻かれたんじゃないかな!と安形の口を塞いだまま、無駄に声を張り上げて適当な理由を述べると
よくわからないと言わんばかりの様子で微笑んで、彼は自分のことを呼んだ友達のもとへ去って行った。

「…安形」

回りに誰もいなくなったのを確認して、ギロリと安形を睨む。飄々とこちらを見ているのが酷く恨めしい。

「こんな傷つけたの、ミチルだろ」
「だからって…」

そこを指摘されてしまえばそれまでだが、こっちだって反論の余地はある。
心なしか嬉しそうな顔をして背中の傷を撫でる安形の胸の内が、オレにはイマイチ理解しがたかった。


end


これで終わり!?みたいな感じですね
精進精進……




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