「はあ」

「名前、そろそろ謝ったらええやんか」

「 いや」



蔵(未だになれないな)と喧嘩しました。喧嘩というか私が一方的に怒ってるだけだけど。
昨日宿題があるのを忘れてて、休み時間必死にやってる私に、ここぞとばかりに蔵がちょっかいをかけてきて。前の日遅くまで起きてて寝不足でイライラしてたのもあって思わず蔵に怒鳴ってしまった。



「確かに白石も悪かったけど、もう許したりいや」

「  ・・・」



それでもいつもみたいにニコニコしてくるかと思ったら、なんか傷ついた顔されて。そのことにもイライラして、「教室帰って」なんて怒鳴っちゃったわけです。

確かに言いすぎたって思ってる。私が怒鳴った後の蔵の顔が頭から離れない。だけど何て言っていいかわからない。
蔵もきっと話し掛けづらいだろうし、私も変な意地が出てきて、あれから今まで一回も蔵とは話してない。



「ほら、見てみ。白石、廊下からめっちゃこっち見てるで」

「  っ、」



謙也が指差す方を見ると、すごくしょぼんとした蔵と目が合って思わず目を逸らす。



「ちょ、名前!喋りかけてやれや。白石めっちゃ寂しそうな顔してんで」

「 知らない。謙也しゃべったら」

「なんでやねん!」



おお、見事なツッコミ。なんてふざけてる場合じゃない実際は。謙也がおい!名前!ってうるさいから謙也が指差してる方を見ると、クラスの女子と話してる蔵がいた。



ズキン



なんだ、これ。蔵の笑顔を見て胸がズキズキする。女子の笑顔を見て胸がズキズキする。



「けんや、」

「なんや  って、え!!なんで泣いてるん!ちょ、名前!?」


謙也に言われてそのことに気づいてから一気に悲しみが襲ってくる。
昨日蔵にひどいこと言っちゃったこと、蔵の悲しそうな顔、蔵が女子に笑顔を向けてること。
今日英語の小テストが全然できなかったことや、廊下で転びそうになったこと。全部悲しく思えてきて、涙が止まらなかった。



「っ、」

「名前どないしたん?腹痛いんか?」



ごめん謙也、そうじゃないって言おうとしてもそれすらできなくて。謙也を困らせてることにまた悲しくなる。

そんなとき、



「名前!!」

「く、ら?」

「どしたん!なんで泣いてるん!謙也になんかされたんか!」



肩を掴んで思いっきりぐわんぐわん揺らしながら話してくる蔵。隣で俺じゃないわ!っておどおどしてる謙也。ああ、いつも通りだ。



「くらっ」

「ん?どうした、お腹痛いんか?」

「ごめん、ね」



下を向きながら小さく呟く。今のと私にはそれが精一杯で、後は涙を止めることに必死だった。チラッと見えたのは蔵の驚いた顔。ちゃんと伝わったかな。蔵、怒ってないかな。ちっちゃな不安が胸に渦巻く。
けど、無理矢理、でも優しく前を向かされるとそこには蔵の笑顔があって、それを見ただけで心のモヤモヤがスッと消えていくのがわかった。



「名前が謝ることちゃうやろ?」

「ちがっ」

「俺の方こそ、ごめんな?」

「 っ、」



違う。蔵が謝るのが間違ってるよ。それでも申し訳なさそうにする蔵は本当に優しい。どんなにきつくあたっても、ひどいこと言っても絶対に蔵は私を怒ったりしない。いつも優しく笑ってくれる。その笑顔が私は・・・


ドキン


そ、そっか。今更気づくこの思い。その思いに気づくと一気に恥ずかしくなって、顔が赤くなるのが分かっ慌てて俯く。どうしよう。今蔵を見るのが異常に恥ずかしい。



「けど、」

「へ?」

「泣いてる名前もなかなか萌えるわ〜」

「「は?」」



思わず謙也とハモって上を見上げると、そこにはニヤニヤしてる蔵。



「こ、この変態!!」

「ぶっ!」

「もう知らない!」

「ちょ、名前!?なんで!?なあ、なんでいきなり!?」

「はあ、白石お前本間にあほやな」

「意味わからへんって!名前ー!!」



思わず蔵のお腹に一発かまして、逃げました。やっぱり奴はただの変態だった!最悪!最低!何が「萌えるわ〜」だ!やっぱりあんなやつなんか好きじゃない!と、言うわけにはいかなくて。蔵のことを考えて赤い顔を隠すように廊下にしゃがみこんだ。


二人が付き合うのはもうちょっと後の話。


大人しいとなんだか寂しいのです

(ちょ、名前どうしたん!?)
(近寄らないで変態!)






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