全てはあいつのせい


「謙也、今日財前は?」

「 休むって言うてた」

「さよか」



財前が休むってことは名前も休むってことやな。マネージャーがおらんのはきついけど仕方あらへん。

最近はこういう事も増えて、部活の雰囲気もとてもいいとは言えない。謙也はパートナーおらんから本格的な練習できへんし、ユウジと小春の笑いはなんか空回っとる。千歳がおらんのはいつものことやけど、他のみんなもやっぱりいつもより心なしか暗い。



「白石、名前大丈夫やろか」

「 心配やな。きっとまた無理してる」

「あいつ、まだ自分のこと責めてるみたいや」

「  ・・・」



ああ、また名前は一人でがんばってる。一人で全部背負い込もうとしてる。

それなのに俺は財前や名前を支えることも、みんなを引っ張って行くこともできん。何がバイブルやねん。何が部長やねん。



「あいつのせいや」

「謙也、よせ。今更それを言ってもどうにもならんやろ」

「せやけどっ」

「俺もできることならあいつのこと探してぶん殴りたいわ。せやけど、せやけどそれじゃなんも変わらへんやろ」

「っ、」



―――――――――――



財前は入学当初から大人しくて無表情なわけじゃなかった。ピアスなんか一つもなかった。そこまではしゃぐわけやなかったけど、そこそこみんなの輪には入っとった。



「光、はいドリンク!」

「名前先輩!サンキューッス」


後輩ができて一番喜んどったのは名前やし、面倒見のいい名前に財前は得に懐いとった。



「ふふ、今日はずいぶん元気だね光」

「 なんでわかったんスか」



それに俺らが嫉妬するくらい名前も財前を可愛がってた。謙也なんかそのことで拗ねとったくらいやからな。

でも、そんときの財前には名前よりもっと好きで大切にしとるやつがおった。



「奈々ちゃんでしょ」

「 そ、そんなんちゃいますよ!先輩やめてくださいよ」

「今日デートって奈々ちゃんから聞いたもんね」

「え!あいつ、言うな言うとったのに」

「嬉しそうに話してたから、許してあげて」

「っ、しゃーないっすわ」



桜井奈々。名前の後輩のマネージャーでそんときの財前の彼女。仕事もできて愛嬌もあって、それで俺らにキャーキャーなんか絶対言わない。財前が惚れるんもわかるくらいええ子やった。



「遅いわ奈々」

「ごめんな、日誌に時間かかってしもうて」

「しゃーないやつやな、ほら」

「へ?」

「 手、」

「  ふふ、ありがとう光君」



財前は本間に桜井のこと大事にしとった。見たこともないような優しい目で桜井を見てて、俺らが桜井と話すとえらい勢いで睨まれた。

財前が本間にええ子に出会えてよかったと、そう思っとった。あの時までは。








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