溢れ出る涙と不安
「急がなきゃ」
放課後、今日に限って先生に授業で使った資料を片付けるように言われた。
本当なんで今日に限ってなの。しかも資料室が教室から遠いうえに、資料が重いから何回かわけて運ばなきゃいけないし。とりあえず、光に事情と教室で待っておくようにメールしなきゃ。
はあ、先生もなんで女子に頼むかななんてぼやきながらメールを送って資料を運ぶ。
「あれ、苗字やん。なにしてんねん」
「あ、河内くん。先生に資料運んどいてって頼まれちゃって」
「そんな重いもんを?担任なにやってんねん」
たまたま教室に入ってきたのは、同じクラスでサッカー部の河内君。あれ、部活どうしたんだろ。
「あはは、大丈夫だよ。心配ありがとう。河内君部活は?」
「忘れ物取りにきたねん。てか、苗字大丈夫ちゃうやろ。まだあるんやろ?」
「え、う、うん」
「手伝うわ」
「え!悪いよ、河内君は部活行かなきゃ!」
いいの、いいのって言いながら教材を持ってくれる河内君。優しいなあ、さすがテニス部に劣らず人気があるだけある。河内君には悪いけど、急がなきゃいけないし河内君の優しさに甘えることにした。
――――――――――
「よし!これで終わりやな!」
「ごめんね、ありがとう」
「全然ええって!またなんかあったら頼ってな」
「本当ありがとう!」
「お、おう。じゃあ俺部活行くわ!」
「うん、また明日ね」
河内君はちょっと焦った感じで走って行ってしまった。どうしよう、やっぱり時間とらせちゃったかな。ごめんね、でも本当に助かった。
ありがとうと心で呟いてから光の教室に急ぐ。一人で大丈夫かな。女の子といないといいけど。
女の子といたら光は確実にパニックになってしまう。昔のトラウマから光は女の子が嫌い、嫌いというか怖いらしい。早く、早く光のとこに行かないと。不安がどんどん心の中に溜まっていく。
「 っ」
「ダメだ、私がしっかりしなきゃ」
――――――――――
「ひかる!」
「せん、ぱ」
よかった、一人だったみたい。でも様子がおかしい。泣きそうな顔だけど・・・怒ってる?どことなく険悪な雰囲気が教室に漂う。
「光?どうしたの?」
パシッ
「 え?」
「さわ、るなっ!」
光に払われた行き場のない手をそのままに光を見つめる。
なんで?朝までは普通だったのに。どうしよう。私が光になにかしてしまったのかもしれない。また光を傷つけてしまったのかもしれない。
「どうしたの?私、なんかした?」
「 っ」
ゆっくり光の手を握れば今度は大丈夫。かわりに光の目からは大量の涙が溢れ出る。
「名前、せんぱっあのひと、だれ?」
「あの人?」
「今日、先輩迎えにっ行こうとしたら、知らん人と、おった!」
「えっと・・・河内君?クラスメイトで、教材運ぶの手伝ってくれたんだよ」
「やっ、あいつやだっ!」
「 光、河内君は手伝ってくれたんだよ?そんなこと言ったら失礼だよ」
「 っ」
「光?」
いきなり光がぎゅって抱き着いてきてちょっと驚いた。光のいつもより早い鼓動が伝わる。それを感じながら私も光の背中に手を回す。
「せんぱい、どこも行ったら、やだっ!」
「大丈夫だよ、光。光が一番だよ。ごめんね、迎えに来てくれてありがとう」
「っ、すき!」
「うん、私も大好き」
また不安にさせてしまった。ごめんね、光。そのまま光の頭を撫でたら、涙も落ち着いたみたいで、手を繋いで光の家に向かった。
「今日は光の家に泊まろうかな」
「ほんまに!?」
「うん、夕ご飯なにがいい?」
「ハンバーグ!」
「わかった、善哉も買おうね!」
「名前、先輩っ!」
嬉しそうに手をぎゅってする光がものすごくかわいくて、思わずまた頭を撫でた。
でもあの時気づいとけばよかった。この一部始終を見ていた子がいたことを。
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