いつも通り屋上で授業をサボりつつ、空を見ながら今日は部活外周かなんて考えていたとき。ドアが開いたと思えばよく聞く落ち着いた声が聞こえた。


「あ、仁王ここにいたんだ」

「名前が屋上に来るんは久しぶりじゃのう」

「そうかな。最近真面目に授業出てたっけ」

「懐かしいのう」

「そうだね。そういえば、仁王と会ったの屋上だもんね」

「あんときは本当ビックリしたぜよ」

「仁王が勘違いするからだよ」


クスクス笑う名前を見ながらふと昔のことを思い出す。俺らが初めて会ったのも屋上じゃたのう。ということはもうあれから1年経つんか。




***



その時から俺は屋上に入り浸っていた。人目のつかない影になってるところに座ってなにをするでもなくぼーっとする時間が好きだった。昔から面白いことには興味を示せるが、どうも自分の興味のないことにはとことん無関心だ。
その日もテニスしたいなんて思いながら授業をサボっていた。


「ふう、」


その時、がちゃりとドアが開くと如何にも平凡で授業なんてサボりそうにない女が入ってきた。面倒臭い。正直にそう思った。影に隠れてるとはいえ屋上から出ようとしたら必ず見つかる。かといって知らん女がそこにいるのはなんとなく居心地が悪かった。
はあ、と小さくため息をつきながらふと女に目をやった時だった。

「ちょ、ちょっと待ちんしゃい!」

「え?」

「・・・あ」

「な、なんですか?」


やってしまった。気づいたときには自分でもビックリするくらい自然と声が出ていた。いや、さっきのは仕方ない。だって


「早まるんじゃなか!」

「・・・はい?」

「自殺なんかするもんじゃないぜよ!」


いくら興味ないことには無関心だからといって、いくら知らない女だからといって、目の前で自殺しようとしてる人がいたら止めるくらいの感情は持ち合わせている。。おまけに冷や汗までかいて。すると、さっきまでぽかんとしてたその女はいきなり爆笑しだした。
びくりと肩が震えた。そしてその笑いの意味を理解できない俺は、完全においてきぼりを喰らい今度は俺がぽかんとする番だった。


「あはははっ!やば、お腹いたいっ!

「な、なんなんじゃ」

「自殺なんかしないよ!

「ビックリさせんといてくれ」

「ごめんごめん。でも、何か意外だね」

「なにがじゃ」

「あのクールで無頓着で有名な仁王くんでも自殺しようとしてる人を助けたりするんだと思って」

「え、お前さん俺をなんだと思っとるんじゃ」

「ロボット、かな?あとお前さんじゃなくて苗字名前だよ」

「名前、ロボットは失礼だじゃ」

「ごめんね。でもクールな仁王くんより、そうやって人間味ある仁王くんのが素敵だよ」


そう言ってまたけらけら笑う苗字名前。さっきまで平凡そうに見えた名前だったけど、けらけら楽しそうに笑う名前はすごく綺麗に見えた。そしてその日から俺の生活には沢山の色がついた。



***



「次の日いきなり話しかけてくるからびっくりしたよ」

「だって、名前と仲良くしたかったんじゃ」

「仁王!ありがとう、大好き!」


仁王と出会ったあの日自殺しかけてたわけじゃなかったけど、正直死んでもいいかなくらいは思ってた。
愛想がないうえにちょっと口が悪くて人付き合いが苦手だから、友達はほぼゼロに近かった。だからって友達が欲しくないわけじゃない。
そんなときにこうやって出会えたのが仁王で、こんなに仲良くなるとは思わなかったけど、仁王と友達になれてよかったって心から思える。丸井にも仁王のおかげで出会えたしね。


「そろそろ授業終わるぜよ」

「そういえば丸井がトイレ行ってる間にサボりにきちゃったから、絶対丸井怒ってるよ」

「めんどくさいなり」

「めんどくさいとかなかなかひどいね、仁王。飴でも与えとけば大丈夫だよ」

「名前の方ひどいなり」


二人で笑ながら階段を降りれば、下からカンカンに怒ってる丸井がひどすぎだろぃ!とか言いながら昇ってきて、それに二人でまた爆笑した。






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