必要最低限のものしかない、昼間なのに異常に静かな病室。点滴が繋がれている自分の腕。治るかわからない病気への恐怖。この閉鎖的な空間と状態は俺を壊していくには十分だった。
「 無敗でお前の帰りを待つ!」
そんなもの気休めにしかならない。実際関東大会負けたじゃないか。自分の中に黒いものが湧き上がってくる。俺だってまたテニスができるようになるかわからないんだ。病気が治るかなんてわからないんだ。
「 っ、はあっ」
テニスができなくなったら、俺は何をして生きていけばいい?みんなは俺から離れていく?いつもはみんなの笑顔が浮かぶのに、今日はみんなが俺を嫌う顔しか浮かばない。
「 い、やだ。嫌だ嫌だ嫌だ!」
常勝が掟の立海。テニスで繋がる俺たちの絆。そこからテニスがなくなればどうなる。みんなは俺に笑いかけてはくれない。俺のいない部活でみんなは楽しそうにテニスをする。その時俺は、
俺は、一人になる?
「 うわあああああああああ!!」
「! せ、精市!?」
「み、んないなくなるんだっ!ひっと、りは嫌、だ!!」
「精市!!」
「 名前…?」
「うん、名前だよ。」
「っ!はな、れないっで!名前、おれっ、俺!」
お見舞いに来たら、精市の様子がいつもとは違った。いつも凛としていた精一はそこにはいなくて。顔には溢れ出てる涙。乱れた息。私にしがみついてくる精市を優しく抱きしめて、頭を撫でた。
「大丈夫だよ。みんな離れてなんか行かない」
「う、そだ!!も、おれてっにす、できな」
「大丈夫、きっとよくなる。お医者さんだって言ってたよ?必ず手術成功させて見せるって」
「でっも、でも!」
「それに、もしテニスができなくなっても精市は精市だよ。みんな精市が大好きなんだから。もちろん私も」
「 っ名前」
なるべく優しい口調で諭すように精市に話しかける。それに、みんな精市のことが本当に大好きなんだ。みんな全国大会に向けて練習しなきゃいけないからお見舞いにはマネージャーの私だけしか行かないって精市やみんなと決めたけど、みんな毎日口を開けば精市の様子しか聞いてこない。全く、みんな私をなんだと思ってるのさ!
それでも、みんなの口から精市の名前が出るたびに緩む頬を抑えられない。大丈夫だよ、精市。みんなは精市が思ってるよりずっと、精市が大切なんだから。
「そうだ、今日は赤也から伝言を預かってきたんだよ!」
「あ、かや?」
「うん。えっとね
幸村部長!体調はどうっスか!?今日は試合13分で終わらせたんスよ!!早く部長と試合したいっス!こてんぱんにやっつけるんで、早く元気になってください!!
だって!」
赤也のものまねをしながら精市に話す。うん、我ながら似すぎだ。
「 …っ」
「みんな、精市の帰りを待ってるよ。なのに精市がそんなんでどうするの」
「そう、だね」
「うん。もう、そんな部長見たらまた赤也が調子に乗っちゃうよ!」
「ふ、ふ 名前ありがとう」
「いいえ、早く帰ってきてね、精市」
「うん。もう病気になんか負けないよ」
「よし!その意気だ!」
「ふふ、それにしてもこてんぱんだなんて赤也にはお仕置きが必要だね」
「せ、精市?」
「ちゃんと赤也に伝えといてね」
「わ、わかったよ」
すっかり元気になった精市はやはり魔王様でした。でも、やっぱりそんな精市のほうが好きだよ。早く、またみんなで笑おうね。