全国大会は3位に終わり、俺らの青春も同時に終わった。別に勉強ができんわけじゃない俺は高校合格もあっさり決めて、明日は卒業や。
ただ、俺は薬剤師になるために県外の高校に行く。謙也やみんなもいない高校に一人で行くのは正直不安やない言うたら嘘になる。でもそんなことよりも



「くら、」

「どしたん、名前」

「私、大丈夫やで」

「 え?」

「遠距離なんか、怖くないで!3年になったら蔵と同じ高校行けるように、勉強がんばんねん!」


いつもの帰り道、手を繋ぎながら帰る帰り道で彼女で後輩の名前が言う。俺を安心させるために言ったかもしれへんけど、笑顔がひきつっとる。



「そやな!俺だって怖くないで!」

「うん!お互いがんばろうな」

「あ、家ついたで、上がっていきや!」

「ありがとう、上がっていくわ!」



名前の隣にある俺の家。昔からずっと一緒にいたのに、名前に飽きることなんかなかった。むしろどんどん好きになっていった。



「そや!今日な、光が珍しく授業中寝ててん!」

「本間か、財前が寝るとか珍しいな」

「やんな!で、眠いん?って聞いたら、昨日ミクに夢中すぎて寝てないねんやって!」

「本間ミク?好きやな、財前は」

「あれはもう中毒やで!」

「ははっ!名前えらい毒舌やな」


くだらないことでもずっと笑いあえる俺ら。昔と何も変わってない。
でも、明日は卒業式や。準備とか忙しいから卒業式の次の日、つまり明後日には俺はもう大阪を出る。

"ちゃんと会いに来るからな"
"いつも忘れへんで"
"ずっと大好きや"

言いたいことはたくさんあるのに言葉は喉にとどまったままで、口から出てきてはくれず、いつも心の中で囁く。



「じゃあ、帰るな。明日卒業式がんばってな」

「おん、ありがとう」

「ほな、」

「   名前!!」

「ん?」

「いや、何もないまた明日な」

「うん、また明日」


もう明後日にはこの言葉も言えなくなる。ご飯食べて風呂入って、ベッドに寝転がったら、いろんなことが頭の中を駆け巡る。



「白石!お前の勝ちや!」
「くら、がんばって!!」
「ファイナルカウンター、ヘカトンケイルの門番」
「勝ったもん勝ちや!!」



気づいたら寝てたみたいやって、朝になってた。今でも鮮明に思い出せる準決勝戦や日々の練習。みんながいて、名前がいた。大丈夫や、悔いは何一つない。俺は自分の夢に向かって歩き出す。その将来に名前がいたらいいななんてことを思いながら制服に着替えて準備をする。一晩寝ただけなのに、俺の頭はかなりすっきりしたみたいや。今なら言える。ちゃんと自分の気持ちを



「蔵!おはよう!」

「おはようさん、行こか」

「うん!」


毎日迎えに来てくれてた名前。一緒に登校するんも今日が最後や。珍しく会話もせずにゆっくり学校に向かう。空気はいつもより重いけど、それでも心地悪いなんて思わん。名前の隣はいつもあたたかくて、どこより安心できた。


「蔵、私な正直不安やねん」

「名前 」

「大げさやけどな、蔵と一生会えんくなるかもしれへんとか考えてまうし。このまま時間が止まればなとか思うこともある。蔵に他に好きな、ひとができたら、とか」

「名前!!」


登校してくる学生とかちらほらいたけど、そんなことかまわんくて、俺は名前を抱きしめた。そうやんな、不安やんな。俺だって不安じゃないわけじゃないけど、大丈夫や。ずっと名前を好きでいる自信なら胸を張ってあるって言える。


「俺が、名前のことどんだけ好きか伝わってへん?」

「ちがっ!そうじゃなくて、」

「大好きや、名前」

「  っ…」

「ちゃんと会えるときには会いに来る。ほかの人なんか好きになるわけがない。名前が高校来るまでずっと待ってる。だから、これからもよろしくな」

「  っう、ん!」


泣いてる名前にちゅっとキスをしたら真っ赤になって、ここ!道だから!外だから!って慌てだした。そんな名前を見て頬が綻ぶのがわかる。


「大丈夫や」

「  好きだよ、くら」





二人で手をつないで、最後になるであろうこの道をゆっくり歩いた。

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