こんなに全力で走ったのは久しぶりだった。もしかしたら初めてかもしれない。何度も諦めた名前の気持ち。諦めた振りをして知らない女に逃げては名前を傷つけた。

都合がいいって分かってる。散々ひどいことして今更だって分かってる。でももしもう一度名前の気持ちが手に入るなら、プライドや世間体、全てを投げ出してもいいと思えた。





「っ、名前!!」

「ま、さはる?」





そこにはさぞかし驚いた顔をした名前と、満足そうに笑う丸井がおった。この際二人の距離が近いのは気にしないでおく。少しずつ名前に近づいて、思いっきり頭をさげた。





「ごめん!」

「・・・え?」

「知らんかったんじゃ、名前が毎日待っててくれたことも、俺が知らないところで泣いてたことも。本当、沢山傷つけてごめんっ」

「なに、言って」



――――――――――



頭が追いつかなかった。ブン太が帰ってきてまた泣きそうななってたら、そこにいきなり走って現れた雅治。そう、大好きな雅治が目の前で私に頭を下げていた。

まさか雅治に謝られる日が来るとは思わなかった。このまま二人は遠くなって。もう二度と話すことはなくなるのだと、そう思ってた。





「都合がいいって、わかっとる。知らなかったからって俺は許されないことをしたってわかっとる。だけどっ、もしもう一度、やり直せるならっ」





雅治、私期待してもいいのかな。毎日祈ってきたことが、願ってきたことが、今目の前で起きてるって、期待してもいいのかな。少し、怖いよ。またあんなことが起こるんじゃないかって。雅治を許していいのかって。

真下に下がってる顔から地面に落ちるものを見た。その瞬間あの時の悲しさや今の不安とかもう考えるのはやめようって思った。だって、私は雅治を突き放すなんてできないよ。目の前で泣いてる雅治を抱きしめない理由なんて私にはないから。

後ろでブン太が帰っていく気配がした。きっと雅治に全てを話してくれたんだね。ここまで導いてくれたんだね。本当ありがとう、ブン太。

私はゆっくり雅治に近づくと、無理矢理その顔を上げさせて、優しく抱き着いた。ああ、本当に私は雅治が大好きなんだ。





「・・名前?」

「私沢山傷付いた。雅治が毎日知らない女の人と何をやってるか、嫌でもわかっちゃって。雅治の気持ちとかいろいろ考えて毎日泣いてた」

「・・・ごめっ」

「雅治のこと嫌いになれればいいのにってずっと思ってた」

「・・・っ」

「でもねっ、全然嫌いになんかっ、なれなくて」

「名前っ」

「私雅治のこと、」

「待って」





雅治に抱きしめていた手を優しく解かれる。そのまま向き合って、雅治と目が合った。そこにはあの時の誰も近づかせない怖い雅治なんかじゃなくて、私の知ってる優しくて大好きな雅治がいた。





「俺から言わせてくれんか」

「・・・うんっ」

「名前、好きじゃ。今までもこれからもずっと名前だけが、大好きじゃ」

「・・・っ」

「もう一度、俺の側にいてくれんか」

「まさ、はっ」

「返事は?」

「・・・っ、大好きっ」





そういえば雅治は優しく私を抱きしめてくれた。雅治の温もりが、気持ちが伝わってくることがこんなにも嬉しい。沢山遠回りしたけど、私達幸せになれたんだよね。雅治を好きになれて本当によかった。自分の唇に温かいものを感じて、また涙が溢れ出た。








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