ああ、もう外が暗い。そろそろ先生が教室を回って来る頃なのに俺の足は未だに動かずにいた。頭の中は名前の泣き顔と、教室の窓から見えた名前が俯きながら丸井に手を引かれてる光景でいっぱいじゃ。
空っぽになった気がした。名前から別れを言われた瞬間に、自分の中の何かが抜けてしまったような感覚だった。それが悲しみなのか、愛情なのか、何かはわからないけれど。
きっと俺が名前を幸せにすることはできないから。せめて今名前が泣いてないことを、丸井と幸せになってることを願うだけだった。
ブーブー 着信 丸井ブン太
来るとは思ったけど本当に来るとはのう。出たくない。けど名前が泣いてないかは気になる。折角じゃ、祝いの言葉でも言えば少しは気持ちは晴れるかもしれん。ゆっくり、通話ボタンに親指を追いた。
「もしもし」
『もしもし、仁王?ちょっと話があるんだけど』
「・・・なんじゃ」
『名前から、事情は聞いた』
「・・・それで?」
『は?』
「わかっとる。名前とくっついたんじゃろ?気にしなくていいから、はっきり言ったらどうじゃ」
『何、言ってんだよ』
「それは丸井のほうじゃないんか?」
『・・・ふざけんなよ!仁王、自分が何言ってんのかわかってんのかよ!』
「・・・・」
『お前は、名前が好きなんじゃないのかよい』
「・・っ」
『仁王!』
「・・・っ、好きにきまっとるじゃろ!!誰よりも、何よりも名前が好きじゃ!けど仕方ないぜよ、名前だって俺のことなんかもう。とにかく、丸井が名前を幸せにしたらいい」
『仁王、お前勘違いしてる』
「え、」
『名前は毎日お前のこと待ってた。部活が終わるまで教室でずっと待ってて、終わったら部活まで迎えに来て、でも仁王がいないから教室まで迎えに行って。その度に泣いて。毎日だぜ?自分だって辛いのに約束だからって、私が待たなきゃって。これがどういう意味かわかっててそんなこと言ってんのかよい』
言い返す言葉がなかった。今までスラスラ出てきた適当な言葉だって今は見つからなかった。
毎日?泣いて?そんなこと、知らなかった。きっと丸井と仲良くやってるんだろと思っとった。なのに、そんな。じゃあ名前はどれだけ傷付いて。本当、俺は最低じゃ済まされないことをした。
「そ、んな」
『やっぱり知らなかったんだな。だけど、知らなかったからってお前がしたことが最低なのは変わりない。だから仁王のことは許せない』
「っ、」
『・・・だけど、だけど名前が今望んでることは一つだけだぜ』
望んでること?名前が?いいのだろうか、自惚れて。こんな最低な俺がまた名前に近づいても許されるのか。まだ、間に合うなら。
『今××公園にいる。わかってるだろい?お前がどうすべきか』
「まる、い」
『早くしねーと知らねえぞ。俺だって男なんだから』
「なっ、」
早くしろよ、名前が泣き止まないだろい?そういった丸井の言葉を聞く頃には足はもう走り出してた。
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