これはなんなんだろう。いつもみたいに教室からは女の人の声と、雅治の声が聞こえて。辛くなって逃げ出して。毎日毎日それが苦しかったはずなのに、今ではその日常が訪れてくれればどんなによかったかと思ってしまう。






「・・・・名前なんて、あいつなんて好きじゃなか!消えろ、今すぐ!」



はっきりと聞こえてしまった雅治の声。それと同時に今すぐここから逃げ出したい衝動に駆られる。けど今の私には溢れ出そうな涙を抑えることで精一杯で。

その場で動けずにいたら、中からいつも声だけ聞こえてた女の人が教室から飛び出してきた。私なんか足元にも及ばないくらい美人。その人に醜いものを見るかのように睨まれた私は本当に雅治の彼女なのかな。

もうダメだ。涙を我慢することが限界で動かない足を必死で動かそうとしとき、



ガタッ



まずい、そう思ったときにはもう遅くて教室から出てきた雅治は心底驚いた顔をしてた。





「あ・・・まさ、は」

「な、なんで」

「さっ、きの」

「いや、あれは」





久々に雅治の顔をちゃんと見た。それだけでこんなにも愛しさが溢れてくるのに、目の前で焦る雅治を見るとやっぱりさっきのが本心なんだと嫌でも気づいてしまう。

ダメ。泣いたらダメなのに。最後くらい雅治にとってのいい女でいたいのに。止まって、そう祈れば祈るほど流れ出る涙。ごめんね、これで最後だから。





「ごめ、んね」

「ちがっ」

「もう、・・・雅治に、近づかないから」

「っ名前」





そんな顔しないでよ、雅治。今ちゃんと終わらすから。いい女でいれたかわからないけど、私なりにちゃんと、終わらすから。








「ばい、ばいっ」

「名前!!」



言えた。言ってしまった。これでもう雅治と笑い合えることも、手を繋ぐことも、好きと言い合うことも、全部なくなってしまった。雅治が戻るのを待ってるって決めたのに。とっくに限界を超えてしまった私はそのまま走り出した。





―――――――――――





ドンッ





「っいて、って名前!?」

「ブン、太」





ああ、ブン太だ。ブン太を見た瞬間に全ての緊張から解かれたように力が抜けて床に座り込んだ。それと同時に雅治と別れてしまったことの実感が一気に襲ってくる。





「大丈夫かよ、またあいつっ」

「も、いいのっ」

「何いってんだよぃ!?」

「わか、れたから」



「は?嘘だろぃ?」

「嘘じゃ、ないっ!もう・・・もう終っちゃったの!もうっ全部・・・」

「名前・・・」





ブン太に当たるなんて最低だ。でも、もう自分を止める術なんて私にはわからなかった。





「ブン太っ」

「大丈夫だから、名前。落ち着け、な?とりあえずここだと人が来るかもしれねえから移動するぞ」

「っ、ごめんね」

「名前が謝ることじゃねえだろぃ。ほら、立てるか?」

「ごめん、ごめっ。も、いいからっ」

「謝るんじゃねえって言ってんだろぃ!それにもう諦めたみたいなこと言うんじゃねぇよ。まだちゃんと話し合えば元に戻るかもしれないだろぃ」





本当ブン太には感謝してもしきれない。でも、何回握ったかわからないブン太の手を取って、俯きながら必死に歩いてても、頭は雅治のことで一杯だった。

ごめんね。今まで雅治を縛ってごめん。たくさん我が儘言ってごめん。彼女づらしてごめん。好きになって、本当にごめんなさい。





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