「あっ、ああん!」





はあ、汚い喘ぎ声じゃな。てか昨日この女にだいぶ冷たく当たったはずなのに、よくぬけぬけと俺を誘えたもんじゃ。それにのる俺も俺じゃが。

ああ、なんか萎えた。





「え、雅治?」

「雅治って呼ぶんじゃなか」

「ど、どうしたの急に。いいじゃない、別に減るもんじゃないでしょ?」

「うるさい、ブスが」





そいつの高い声にイライラしてそう言えば、女は俺の隣でひどいやら最低やらヒステリックに叫びだした。うるさい、耳が痛い。だいたい俺がいつ名前で呼んでいいって言ったんじゃ。

ため息をついて、乱暴に投げてあるブレザーを拾う。





「あの子のどこがいいのよ」





ブレザーに腕を通し終わったときに不意に聞こえた小さな声に顔を上げる。目の前の女はひどく険しい顔をしてたろう俺と目が合い少し肩を揺らした。





「苗字さんのどこがいいの!可愛くないし、丸井君と浮気してるし、最低な女じゃない!」





バンッ



その女が全てを言い終えると目の前にあった机を蹴り飛ばしたのはほぼ同時だった。怒りで殴り飛ばしそうなのを抑えてそいつの胸倉を掴む。





「誰が最低なのかもう一回言ってみろ」

「だ、だって」

「お前さんみたいなブスな女が名前の名前を口にするな」

「っ、ひどいっ!」


「  殴られたくなかったら、今すぐ消えろ」

「   っ、」

「聞こえんかったんか?それとも殴られたいんか?」



「なによ、雅治あの子にべた惚れなんじゃない!」

「・・・うるさい」

「叶わない恋なんかしちゃって、かわいそう!」

「うるさい!名前なんて、あいつなんて好きじゃなか!消えろ、今すぐ!」





乱暴に胸倉を離す。これ以上こいつといると自分がおかしくなりそうじゃ。流石にこんな俺にビビったのかその女は走って逃げていった。

好きじゃない、か。そう思えたらどれだけいいか。そう思えないから今の現状に陥ってるというのに。





ガタッ



「  え?」

「あ・・・まさ、は」

「な、なんで」





目の前には紛れもなく名前。大好きな大好きな名前。ドクンドクン。一気に自分の体温が上がる。熱でもあるんじゃないか。名前の顔を久しぶりに見てこんなに嬉しいはずなのに。





「さっ、きの」

「いや、あれは」





まさか聞かれてたなんて。違う、違うんじゃ。そう言いたいのにこんなときに限っていつもの饒舌を披露することができない。嫌な汗ばかり出てくる。





「ごめ、んね」

「ちがっ」

「もう、・・・雅治に、近づかないから」

「っ名前」

「ばい、ばいっ」

「名前!!」





初めて見た名前の涙。ああ、本当に俺はどれだけ馬鹿なんじゃ。どんなに名前のことを好きでも俺は名前を笑顔にすることはできない。

丸井ならきっとすぐ名前を笑顔にできる。俺が側にいるよりも丸井の方が。

そう考えると俺は名前を追いかけることはできなかった。





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