「あれ?あそこに歩いてるのって、雅治の彼女じゃないのー?」

「ああ、そうじゃな」





教室の窓から見えるのは雪の中帰る丸井、と名前。この光景を見るのはいったい何回目じゃったかのう。

丸井の少し後ろをちょこちょこと歩く名前。二人が楽しそうに話してるんだと考えるだけで殴りたい衝動に駆られる。





「雅治本当にあの子と付き合ってるのー?いつも丸井君と帰ってるじゃない」

「黙りんしゃい」

「だって、雅治かわいそうじゃない。あの子絶対浮気して「黙れって言ってるのがわからんのか?」 」

「ご、ごめんね雅治!今日家来る?」

「帰る」

「え?」

「帰るって言っとるんじゃ」





適当に制服を直して教室を出ていく。あの女?あんなやつ知らん。名前すら覚えとらん。あんな下品な女。

ああ、イライラする。いつからこんなんなったんじゃろ。きっかけは些細なことだった。丸井と異様に仲のいい名前にむしゃくしゃして。

気付いたらいろんな女を抱いてた。気付いたら名前に一切触らなくなってた。それと同じ時期から部活にもあまり出なくなって。そうしたら自然と今の生活が定着してた。





「名前・・・」





正直名前が泣いてくるって思っとった。俺だけを見てくれると思っとった。

けどそれが叶うことはなかった。いつの間にか名前との距離は離れていって、それに伴って丸井と名前の距離が縮まった気がした。二人の姿を見る度に他の女をひっかけては寝る。もうこのサイクルから抜け出せんでいる。





ブーブー

着信 丸井ブン太





なんじゃ、こんな時に。あんな光景を見た後だから正直出たくない。でも、出んかったらまためんどうやからのう。





「もしもし」

『お前部活サボってなにやってんだよぃ』

「なんでもいいじゃろ」

『真田がまた怒ってたぜ。多分明日あたりつかまるぞお前』

「大丈夫じゃって、適当にごまかす」

『お前なあ』

「なんじゃブンちゃん。心配してくれとるんか」

『ちげえよ!』



『仁王』

「なんじゃ」

『お前後悔しても知らねぇからな』

「だから大丈夫じゃって」

『真田のことじゃねえよ。名前のことだよ』





やっぱり出るんじゃなかった。丸井から名前の名前を聞くたびにズキスキ胸が痛む。





「その話するなら切る」

『ちょっと待てよ!お前名前がどんな気持ちで』





どんな気持ちで?なんで丸井からそんなこと言われないかんのんじゃ。俺だってどんな気持ちで二人を見てるか、どんな気持ちで好きでもない女を抱いてるか。

どうせ俺を捨てるなら、そんなに丸井の方が好きなら、いっそのこと。





「 だったら丸井が名前と付き合えばいいじゃろ」

『はあ!?お前何言ってんだよ!本気で言ってんのか!』





ほぼ独り言みたいなものだった。そのまま何か言ってる丸井を無視して電話を切って、近くの公園に入る。





「懐かしいのう」





昔よく二人で来た公園。そこにある小さなベンチに今は一人で座る。

丸井と付き合ったらなんて嘘じゃ。そんなことされたら本当に俺は生きていけない。今すぐ名前を抱きしめたい、キスをしたい。嘘でもいいから好きって言ってほしい。好きなんじゃ、名前。





「っ、」





けど、それを名前に言えるほど俺は強くない。本当、とんだ弱虫じゃ。溢れる涙も拭かないまま、心の中で何回も名前の名を呼んだ。





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