あなたを呼んでいる


「ただいまー」

『おかえりなさい。今日も早かったね』

「当たり前やん!浪速のスピードスターなめたらあかんで!あ!ちょ、名前聞いてやー!」

『ふふ、今日はどうしたの』

「今日財前が思いっきり頭叩きよってん!」

『謙也君ドンマイだね』

「なっ、人事だと思って!」

『しかたないよ。謙也君が鈍臭いから』

「え、なんか名前いきなり毒舌やめてや!俺ガラスのハートやねんで!」

『ふふ、ごめんごめん』

「あ!スピーディーちゃんに餌やるの忘れてたわ!」

『それは急がなきゃ。浪速のスピードスターでしょ?』

「名前今完全にバカにしたやろ!」

『そ、そんなことないよ!』

「まあ、今日は許したるわ!」

『謙也君、』

「ん?」

『大好きだよ』

「俺も大好きやで」



部活から帰ってからの名前との電話は俺の日課や。最近じゃ毎日名前と話しとる。学校違うし、部活も忙しくてなかなか会えへん俺ら。だから俺にはその時間が何よりもの幸せや。




――――――――――――



「謙也、」

「どないしたん、白石。俺早く帰って名前に電話せな!」

「   っ、謙也!ええ加減「白石!」」

「おお!ユウジまでなんやねん!」

「なんでもないわ!白石、ちょっと」

「  わかった」

「なんや白石に用か。じゃあ俺名前が待ってるから帰るな!」

「おう、また明日な」



二人ともなんや顔色悪かったけど大丈夫なんかな。暑くて夏バテか?ああ!急がな!絶対名前待ってるわ!



"白石、お前何考えてんねん"

"だって、あのままじゃ謙也が!"

"けど本当のことをあいつに言って、もっと状況が酷くなったらどないすんねん"

"   ユウジ、きっともう潮時やねん。これ以上あんな謙也見たくない。みんなだってもう限界のはずや"

"    っ、"



"明日、俺がちゃんと謙也に言う"



――――――――――――



「ただいま!」

『おかえりなさい。今日も早かったね』

「本間か!?今日はめっちゃ急いでん!そういえば!名前聞いてやー!」

『ふふ、今日はどうしたの』

「今日数学の教科書忘れてん!しかも今日に限って当てられるし」

『謙也君ドンマイだね』

「ちょ、もっと慰めてやー」

『しかたないよ。謙也君が鈍臭いから』

「名前冷たいわー!本間に焦ってんで!」

『ふふ、ごめんごめん』

「あ!もう飯の時間や!はよせなおかんに怒鳴られるわ」

『それは急がなきゃ。浪速のスピードスターでしょ?』

「名前声が笑ってんで!」

『そ、そんなことないよ!』

「ったく、しゃーないな。今日は許したるわ」

『謙也君、』

「なん?」

『大好きだよ』



「俺も大好きやで」



ああ、今日も名前の声が聞こえる。俺のこと、大好きって言ってくれる。今日も幸せや。
でも、幸せな気持ちのはずでベッドに寝転んだのに、なんでや。なんで今日は涙が止まらへんのんやろ。胸に渦巻くこの気持ちを俺には理解できへんかった。




――――――――――――



「謙也!」

「白石。ごめん、今日部活長引いたやろ?早く帰らな名前が「謙也!!」

「な、なんやねん大きな声出して」



いきなり白石が怒鳴るからビックリしたけど、俺の頭の中は名前でいっぱいやった。早く名前と話したい。名前の声が聞きたい。名前、名前、名前・・・。



「もう終わりにしよう」

「なんのことやねん、俺急いでんねん」

「名前ちゃんのことや」

「は?」



なんで白石から名前の名前が出てくるんや。話が掴めないのと、早く帰りたい気持ちから苛立ちが募る。名前がなんやねん。なんで白石から名前の話を聞かないけんねん。



「謙也、そろそろ目覚ましや」

「何言ってんねん」

「もう名前ちゃんはここにはおらへんのや」

「意味わからへん!さっきからなんやねん!」



名前がここにはいない?何言ってんねん、白石。


ズキン


「っ、」


なんでこんな時に頭痛やねん。イライラする。意味がわからへん。白石にも頭痛にもイライラする。



「謙也、」

「言っていいことと、悪いことがあるで白石。名前がおらん?なんのことやねん!昨日だってちゃんと名前と話してんで!」

「ユウジ」

「わかった」



白石がユウジに合図を送ると、いきなりユウジが俺の鞄を漁ってくる。



「ちょ、やめろや!なんやねん、お前ら!!」

「あったで」



ユウジの手には俺の黄色の携帯。



「謙也、よく聞いてや」

「何をやねん!てか、携帯返せや!!」




『おかえりなさい。今日も早かったね』




「     え?」


『ふふ、今日はどうしたの』



携帯から聞こえるのは確かに名前の声。



ズキン



『謙也君ドンマイだね』


「謙也、」

「  いやや」



ズキン



『しかたないよ。謙也君が鈍臭いから』


「名前は、」

「  嫌や、嫌や、嫌や!!」



ズキン



『謙也君、』




「名前は死んだんや」


『大好きだよ』


「いややあああぁああぁぁ!!」







「謙也くん!」

「明日やっとで会えるね!」

「私、幸せだよ」




キキィーッ




「    名前!!」

「忍足くん、名前が!名前が!!」






「謙也、謙也!!」

「なんでや・・・、名前、名前」



いろいろな記憶が一気に頭の中に流れ込んでくる。なんでや、なんで名前は死んでしまったんや。なんで俺は生きてんねや。なんであいつのいない世界で生きてんねん、俺は。



「ちょ、謙也どこいくねん!!」

「白石!あっちは!!」

「っ!謙也、あかん!謙也!」





キキィーッ



「っ、謙也あぁああぁぁ!!」



ズキズキ痛む体。でも、不思議やな。こんなに体が痛いのに今ものすごく幸せや。もうすぐ、名前に会える。大好きな名前に会える。




「名前・・・、俺も、愛してる」



消えていく意識の中、最後に名前の泣いてる声が聞こえた気がした。



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