「姫様が……八重桜の花が散るぐらいになると、いつもお辛そうだから……それで、ちょっと花を増やそうと。そうすれば、少しは元気になられると思ったんだ」
狐々の心遣いに蓮華はふ、と笑った。
だが、次いで首を傾けた。
「……なるかしら?」
その問いを予想していたのか、あるいは自分でもわかっていたのか、狐々は下目がちに視線を迷わせた。
「ならないだろうな。花は気休めだ。……時にはその気休めも必要だが、姫様には気休めではもう無理かもしれない」
「……花っていえば、あんたまだこぶしの花を?」
狐々は困ったように笑う。
「──…少なくとも、私や人間には必要だったな」
その笑い方に痛々しさも混じり、蓮華は子供をあやすように狐々の頭を撫でた。狐々は嬉しそうに目を細める。
蓮華は撫でていた手を下ろし、小さく嘆息した。
「本当に、あんたも姫様も、どうして人間を好きになっちゃったんだろうねえ」
「たまたま好きになったのが人間だったんだ」
狐々は足をぶらぶらとさせながら答える。
蓮華はその顔を覗き込んだ。
「ね、あんた姫様の想い人を知ってるんでしょう? どんな人?」
その問いに、狐々はぶらつかせていた足を止めた。それからわなわなと肩を震わせ、怒りのこもった目で蓮華を仰いだ。
「そいつが問題なんだ! あの生臭坊主! あいつさえ出てこなければ……!」
ああもう、と腹立たしげに頭をかきむしる。
「これが品行方正、清く正しく美しい人間であれば、わたしも譲りたくはないが、万歩譲っていいとしよう! だがあの生臭坊主が姫様をたぶらかさなければ……!」
「あらまあ、穏やかじゃないね」
「姫様の選んだ相手ならと辛酸を舐める思いで見定めようとしたが、良い所がひとっっつも見つからぬ。あの生臭坊主のどこがいいのか、甚だ理解に苦しむ」
「……でも、姫様はその人がいいんだものねえ」
蓮華の静かな一言が、狐々の煮えたぎる感情を冷やした。
言いながら正座を崩し、狐々の隣に腰掛ける。
「だから苦しいんだね。姫様は長だから、人間に反感を抱く同胞のことも考えなくちゃいけない。……あんたの時みたいに」
私もさ、と蓮華は膝の上に頬杖をついた。
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