結局、海山と同じだ。互いが互いの世界を捨てられず、己の世界に固執した。
その為少女は海山を呪い、言葉を失った。
その為海山は乾きを得て、最も美しいとした盃を割った。
「……私は……」
何本目かの涙の筋が頬をつたって盃に落ちる。
「……本当にあの人を好きだったの……?」
愛しいなら何故、永遠に乾けなどと呪詛を吐いたのか。
「愚かな……なんて愚かなことを」
本当に愚かだ。失うことを恐れるあまりに、海山を憎んでしまった。
――何と醜い。
せっかく海山が美しいと与えた姿を自ら放棄し、己の醜さを露呈した。
――何故。
愛しいと思ったのは、幻想か。
「……間違っちゃいないよ」
雨音の中、嵐の声が異様に響いて聞こえた。
「……好きなら好きで、お互い結構わがままになるもんだ。離れたくないならそのぶん、どうにかしようと思うのが本当だろうよ」
「……いいの……?」
「いいかどうかは本人次第じゃないか」
呪詛を持ち出すあたり、やりすぎな感もいなめないが。
「だけど、君は待ってたんだろう」
茶碗も布団も何もかも、海山のために用意されている。シャツの意味が初めてわかった。
「このシャツな、憲治さんに着ていけ言われたんだよ。君にわからせるためだったんだな」
シャツを着た嵐は、おそらく彼女には海山に見えていたのだろう。今までの優遇の数々は、全て海山に対してのものだったのだ。
「多分、君がまだ自分を待ってくれてるって思ってるんだろう。信頼がなけりゃこんなことやれない。待ってるんだろ? まだ君も」
少女はゆっくりと顎をひいた。
――そう、会いたい。
会ってまた、もう一度過ごせるなら。その機会を得られるなら。
「……会いたい。あの人と一緒にいたい」
「……素直が一番だな」
少女はきょとんとしている。
「ああ、一つ聞きたいんだ」
「なに?」
「十年以上前に、ここに人が来てないか。とりあえず四人」
涙をぬぐい、少女は少し考えて口を開いた。
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