大老会に妖狐という種族の政治的な決定権はない。各地の妖狐の一族の相談役のような位置づけであり、必要に応じて知識を提供し、助言する。そのためか、精神的な支えとして、妖狐全体の大きな柱となっていた。
 それが、このところ頻繁に大老会が召集され、葛が呼ばれる。理由は簡単だった。彼らは長としての葛の血が、次代に残せるかどうかということを危惧しているのだった。
 葛が治める一族は全国でも一、二を争うほど大規模な一族である。それほど大きな一族を治めるだけの度量が女に備わっているのかと、葛が先代から長の座を譲り受けた当初は、いぶかしむ声もあった。だが、結果は現在の通りである。葛は妖狐としての力と己の才覚を大いに発揮し、先代に匹敵するほどの統率力を見せた。
 そうすると、次に周囲が危惧するのは葛の喪失である。
 大きな才能であればあるだけ、失った時の影響は大きい。一族の規模が大きい分、その範囲は更に広がるだろう。そのため、葛には次代の誕生が大きく望まれていた。血による継承が全てではないものの、葛の才覚を受け継ぐ狐がいれば、という望みは繋がれる。
 種の行方を危惧しての助言となれば、大権のない大老会の出番であろう。
「……大体」
 そう言って、鼻息荒く狐々は腕組みをした。
「伴侶を作れと言われて、七日かそこらで見つかるものか! 前回の召集からまだ七日だぞ! ……それで見つかるものなら、姫様もこれほどお困りになることもないだろう……」
 言葉の後半では意気消沈して、狐々は声の調子を落とす。彼女もまた、葛の内心を知っていた。そして、蓮華以上に葛の心の揺れ具合もわかるのだった。
 蓮華もまた、狐々以上に葛の心がわかるとは思っていなかった。彼女には二人のような経験がない。だから、安易に励ましや慰めの言葉をかけてやることも出来ない。幼い頃から共に過ごし、葛と同じようにその立場の重さを知ってきた蓮華には尚更だった。
 狐々を見つめていた視線を庭へ戻し、蓮華は静かに尋ねる。
「そういえば、庭で何をしていたの?」
 ぴっ、と狐々の尻尾と耳が立った。変化したての時はそうでもなかったが、随分と表情豊かな動きをするようになったものである。
 狐々は青々と葉を茂らせる八重桜を見つめながら、おずおずと答えた。

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