この品のいい招待状には、大きな樫の一枚板によるテーブルの上の方がよく似合っている。それを見るのが小説から飛び出したような執事という職業の男なのだから、尚更だろう。よくよく見れば品のいい顔をしている。美人、という言葉が似合いそうだった。
 同性の自分でもそう思うのだから、異性相手には相当の効果を発揮するに違いない。
 田野倉は手に取って文面を目で追う。全て読み終えて招待状をテーブルに戻すと、困惑に満ちた眼差しで嵐を見た。
「これはどういう……」
「何日か前に家へ届いた招待状です。ご存知ありませんか?」
「いえ」
「蘇芳小五郎さんという名前には」
「この屋敷を元々持ってらっしゃった方というぐらいしか。それもご近所さんから聞いた話なので、何とも」
 そう言って首を傾げてみせる。その仕草が人形のようで、本当に綺麗な顔立ちをしているのだと思わず再確認してしまった。
 一方で、田野倉の表情を盗み見ていた嵐は槇の様子も横目で窺っていた。ふざけた性格はともかく、人の表情を見る技術には長けている。だからこそ警察などという職業についたのかもしれない。槇が少しでもひっかかることがあればそれは調べる余地のあることだ。
 田野倉の顔を見たまま槇の顔はぴくりとも動かない。愛想笑いでもすればいいのに、と思った嵐の視界の端でその親指が忙しなく膝をこすっているのが見えた。
──なるほど。
 槇から田野倉へと意識を戻し、嵐は口を開いた。
「ここは桜が有名だそうですね」
「はい」
 ようやく自分の範疇にある話題が出たとばかりに田野倉は大きく頷いた。
「こちらの招待状にあるように、昔は観桜会もよく行われていたそうです。今はもう行われてはいませんが、その桜の木は健在ですよ」
「へえ、凄いですね」
 メモを閉じた石本が口を挟む。ここではもう実になるような情報は得られないと判断したのだろう。
「確か、桜の寿命は人間の還暦ぐらいでしたね」
「よくご存知で。ですが、その蘇芳さんという方の手入れがよっぽど良かったんだと思います。今でも毎年ちゃんと花を咲かせていますよ。ご覧になりますか?」
 是非、と言った槇の顔に不敵な表情が通り過ぎるのを、嵐は見逃さなかった。



 異様に静かな屋敷だった。
 絨毯を踏む四人分の足音、時折窓を揺らす風、その向こうでさわさわと葉をこすれあわせる木々、枝の間隙から顔を覗かせて鳴く鳥、それらの音以外は一切耳にしない。
 自然の音ばかりが耳を支配するのもまた、静寂になり得るのだと思わせる。

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