腰掛けた槇が身を乗り出す。
「管理、というと」
田野倉は困ったように笑った。
「度々申し訳ないのですが……現在、こちらのご家族は皆様出払っておりまして、いつお帰りになるかもわからない状況なのです。つきましては用件だけお伺いして、後ほど、改めてこちらからご連絡させて頂くという形を取らせてもらいたいのですが」
予想外の展開に槇と石本が顔を見合わせる。それを横目に嵐は田野倉に話しかけた。
「多分、こちらの事情と入り混じって面倒な話になると思うので、座って頂けませんか」
嵐の申し出に困惑しながらも田野倉は頷き、「失礼します」と言って三人に面するソファに腰掛ける。
そこでどうにか本題を思い出した石本が事件を簡単に説明した。嵐のことは後でいいと思ったのか、その説明には含まれておらず、故に田野倉もすんなりと話を飲み込めたようだった。
「確かに、そのお二方には覚えがあります」
「よく覚えてますね」
「職業病でしょう。人の顔は記憶に残るんですよ。特にうちはお客様が少ないですから」
「……はあ」
いまいち飲み込めないでいる石本に向かって田野倉は説明する。
「さっき申し上げましたとおり、ここの家族……わたしの雇い主にあたりますね、その方々は屋敷を手に入れて殆どすぐに仕事などで家を空けるようになってしまったので」
「ああ、ご主人は貿易関係のお仕事ですよね」
「そうです。旦那様のお仕事の都合などで外国を転々とすることも多々あったようで、ご家族がご在宅の際にはそれなりに人の出入りもあったのですが」
「家族がいなくなれば来訪する意味もなくなる、と」
言葉を継いだ槇に田野倉は苦笑して頷いた。
「その通りです。それでも屋敷を管理する側としてはいつでも万全の状態にしておかねばなりませんので、時々宮古さんには庭や花の管理をお願いしていました」
「高洲俊一さんは?」
「高洲さん、という方に関しては全くの偶然としか言い様がありませんね」
──そりゃそうだ。
それなりに何らかの収穫を期待していたらしい二人の落胆が手に取るようにわかる。明らかに気落ちして石本はがっかりした表情を隠そうともしない一方、槇などは何か企んでいるような顔つきになった。
ガス会社ぐるみで図って殺人事件、などという馬鹿な発想は頭の中だけでするに止まる。そんな発想をした自分にも想像力の貧困さが窺え、嵐は微かにがっくりきながら田野倉に声をかけた。
「自分はこの二人とはちょっと違った用件で伺ったのですが、そちらもいいでしょうか」
「どうぞ」
田野倉のこの笑顔は人徳だな、と内心舌を巻きつつ、嵐は例の招待状をテーブルの上に置く。
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