「……三つ氏は氏神として機能していない。いないから、三つ塚ではまじないが……」
 言ってから嘆息し、言い直した。
「……まじないって言っていいもんか、あれはもう呪いの域だ」
「呪いって」
 笑いかけた明良を一瞥する。
「呪いだよ。相手の名前を書いて、悪事を告げる。そんなことを生業にしてる化け物だっているんだからな、その場合は寿命が縮むんだが。あのまじないだって似たようなもんだろう。紙に書かれた名前に悪事が返ってくるんだ。それがどんな形であれ、人の手を離れた報復である以上、呪いと言っていい」
「返しの風かしら、ちょっと違うけど」
 コップを傾けながら丁が話に参入した。
「あれは呪詛を返すものだけど、これは「言葉」を返すのね。ことのは返しって言えば聞こえも良いわ」
「……それはともかく、三つ氏では呪いがまかり通っていた。いくら手入れしてないとは言え、神域がそうそう力を失うわけがない。何かがあって三つ氏は氏神としての機能を果たさなくなったんだ」
「ごめん、話の腰折るようで悪いけど、じゃあ、塚と氏神さんってどっちが先なんだよ?」
 手を拝むようにして掲げて明良が問う。
「先って」
「だから、塚が出来て氏神さんが機能しなくなったのか、氏神さんが機能しなくなって塚が出来たのか。その時期の前後。それがはっきりしてりゃ、そう悩むこともなかったんじゃねえの?」
「塚が先。でも、氏神の機能停止は塚の所為じゃない。むしろ、塚の主は氏神が機能しなくなって出れなくなったって愚痴もらしてたよ」
 だろう、と少女を見やる。勢いを失った少女は素直に顎を引いた。
「神域が生きておれば穢れは自然と追い出される。老爺は決して穢れなどではないが、人間の行いによって貶められた。それは本当に不本意なことだが……神域が生きておれば老爺は自然と出ることが出来たのだ」
 少女の言う老爺とは塚の主のことだろう。そのあたりの関係性はひとまず置いて、嵐は少女の言葉を継ぐ。
「氏神が機能しなくなれば塚の主が出れるわけじゃない。神域が神域として機能しないんだから、そのあたりの融通も利かなくなる。だから塚の主は出れなかった」
 同時に、と言って自分のコップの近くの灰皿を手繰り寄せる。
「穢れの塊みたいな呪いも有効だったんだ、あの場では。塚に埋められた紙は本当に他愛無いものばかりだったと思う。子供の遊びみたいな感覚で広まったんだから、そりゃ当然なんだが、一部の「本物」が遊びに力を与えた。……それが一番目に埋められた紙だ」

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