目を白黒させて明良は目の前の存在を見定めようとするが、どうにも自分の理解の範疇を超えていた。一方で、少女の雰囲気は自分にも覚えのあるものだとわかっていた。しかし、どこで覚えたものだったか。
 ころころと表情の変わる少女は鼻をふん、と鳴らし、腕を組んで嵐を見据える。
「……覚えておるぞ、その無気力な顔! 足を洗って待っておったか」
「もともと洗うような足も無いもんでね。やっぱりお前かよ」
「何がだ」
「三つ氏でうろうろしてた子狐ってのはお前だろう」
 途端にそれまでの強気はどこへやら、言葉に詰まって袴を握り締める。
「雑鬼に忠告されたぞ、邪魔するなって。馬鹿にされはするが忠告されたのなんて初めてだ。……一人で出来ると思ったのか」
 自分で言って物悲しくなりながら胡坐をかく。そこでようやく少女の顔をしっかりと見ることが出来た。眉が歪み、目が赤くなっていくのがわかる。袴を握り締めた指先は力を込めすぎて白い。
 泣かせるつもりはないんだが、と困りながら頭をかき、煙草を少女から遠ざけるように持つ。
「兄ちゃん」
 話に口の挟む余地の見えなかった武文がやっとの思いで口を開く。振り返れば、武文が不安そうな顔で見ていた。彼にしてみれば全く話の見えない展開で、どうしたものか困っていたのだろう。当事者を放って話しを進めていたな、と、その声に促されて嵐はぽつぽつと話し始めた。
「ここに来る前、笹山さんの当主に……お前からすれば友達の父さんだな、三つ塚のことを聞いてきた。あれは正真正銘、塚と言えるのは真ん中の一つだけだ。狐の墓だよ」
「じゃあ、あと二つは」
 落ち着いた声で明良が問い、嵐の近くに座る。明良の視線を受けながら、嵐はしばし黙ってから口を開いた。
「……そこは俺が言うことじゃないし、今回のことにもあまり関係はない。ただ、残り二つの内の一つがまじないの手助けになったってことで勘弁してくれないか」
 三つ塚の形成された経緯はあまりにも笹山の心に踏み込みすぎる面がある。それをどんな理由であれ、他人に話していいはずがない。あの悄然とした背中にこれ以上の荷物を背負わせるのは酷というものだろう。
 嵐の真意を悟ったらしい明良は「わかった」と言って、話の続きを促した。
「そもそも、あの塚はまじないの為に作られたものじゃなかった。ただ純粋に墓だったのをまじないの道具に昇華させたのはごく最近のことだ」
「……笹山……」
 小さく呟かれた言葉に答えるでもなく、嵐は体を室内へ半分向ける。

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