「夜分に恐れ入る。折り入って頼みたいことがある。話をしたいので門を開けてもらえないだろうか」
「それは困る。障子越しでも構わないだろう」
「ならぬ。大事な事ゆえ、顔を確認して話さねばならない」
「そんな大事な事なら何もこんな遅くに来るいわれはない。それなら明日また改めて来てもらおう」
「ならぬ」
「じゃあ、用件を聞かせてくれ。それ次第だ」
 一瞬、男の声は黙り込むが、やがて意を決したように早口で話し始めた。
「そちらにいる預かりものは我らが主に縁あるものとお見受けする。本来ならば主にご報告するのが努めであるが、事を急いて主の手を煩わせたくはない。よって我が目で確認した後、引渡しを願いたい」
 話を聞きながら静かにテーブルの上の煙草に手を伸ばし、火をつける。武文は不安げに、明良は呆れたような目を向けたが、丁はちらりと見ただけで再びコップを傾けた。
──賢明ね。
 特に咎められるでもなく、丁の目は嵐の行動を認めた。ここで反対でもされたらたまったものではない。いくらかほっとし、障子に向かって苦笑混じりに煙草の煙を吐く。
「そりゃ、余計に出来ない相談だな」
「なんだと……!」
「この預かりものはちょっと厄介でね、子供にしては大きな因果を持たされてるんだ。それを解消しないといけない。今、引渡しどうこうなんて話をしてる暇も実はないんだよ」
「貴様、我を愚弄するか!」
 言い切らない内に声と気配が膨れ上がり、障子が大きく震える。思いがけず大きな反応に嵐も少しだけ後退するが、臆したことを悟られてはならないとその場に留まった。
──やれやれだ。
 煙草をくわえて震える障子に手をかける。放っとけば力任せに障子ごと吹き飛ばされかねない。それこそ嵐にとっては身体的にも後の金銭的にも痛手となる。
 挟む言葉もなく一部始終を見ていた武文が嵐の動作に気付いたように立ち上がり、その腕を掴んだ。
「何やってんだよ! あいつ入ってきちゃうじゃないか!」
 事態の真相は飲み込めずとも、自分の置かれている立場ぐらいはわかるつもりだ。二人のやりとりに出た「預かりもの」は自分を指すのだろうと。
 だが、嵐が引渡しを突っぱねたくせに障子を開けようと手をかけたことは理解出来ない。まさか諦めたのだろうか。それで面倒になって自分を障子の向こうへ突き出すつもりなのだろうか。障子の向こうには何がいるのだろう。
──怖い。

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