しかし、踏み込みすぎるでもない、どこか一線を画した接し方は武文にも覚えのあるものだった。
「兄ちゃん、笹山に似てる」
「あ?」
 何杯目かの酒を注ぎながら武文の方へ首を巡らす。
「あいつの方がもっと良い奴だけどさ」
「……言うじゃねえか」
 思いがけず口をついた悪態に嵐は咎めるでもなく、しかし、いくらかひきつった笑いを見せた。
 それに武文が小さく笑って返した時である。
 凄まじい音が空気を震わせた。
「……随分派手ね」
 床や壁を木槌で叩いているのかと思うほどに大きな音が辺り構わず鳴り響く。呼応するかのように電気も消え、その下でコンロの火が揺らめく中、平然とコップを傾ける丁の姿は異様に見えた。驚いて肩をすくめる明良や武文の反応の方が正常なのだろうと、自身もやや落ち着き払って出方を待った。
「お前の言ってた客ってこれかよ」
 驚く割には声に震えが見られないのはさすが寺の息子と言うべきか。嵐は武文の肩を叩いてコンロの火を消すように言った。
「火事になってみろ、馬鹿みたいな金額要求されるからな」
「あ、言ったなてめえ。これでも檀家の信仰は篤いんだぞ」
 騒音に負けじと声を張り上げた嵐だが、そこへ明良が突っかかる。決してペースを崩さない二人に武文は少し救われ、コンロの火を消した。
「わ、暗い」
 一人で着々と酒を飲み進めていた丁が初めて驚いたような声をあげる。
 確かに、かろうじて明かり代わりになっていたコンロも消えた今、障子越しの月明かりのみが各々の輪郭を浮き彫りにする。それでも、明かりに慣れきっていた目には見え辛いことこの上なく、しばらく瞼の裏をコンロの明かりの残像がちらついた。
 だが、丁は違う。夜目は利くだろうに、と嵐がうんざりしかけた時だった。
「主はおらぬか!」
 部屋へぶつけるような勢いで、縁側から男の濁声が響き渡る。瞬時にして騒音は静まり、落ち着きかけた四人の心臓もすくみあがった。声はすれども障子は平常を保ち、姿は見えない。
「主はおらぬか!」
 繰り返す男の声に立ち上がろうとした明良を制し、嵐が障子の前に立った。
「こんな夜更けに何の用だ」
 オレの立場は、と自分を指差す明良に静かにするよう手振りで示し、嵐は次の言葉を待つ。気持ちは落ち着いていた。

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