「あんなって……ご存知なんですか」
 笹山はしまったという顔をして、決まりが悪そうに頭をかく。予想外に豊かな表情を見せる様に、最終手段の可能性が窺えた。話ぐらいは聞いてくれるかもしれない。
「じゃあ、三つ塚のことも知っていますね」
 顔を上げて嵐の目を見据え、反論する言葉を探しているようだ。だが、深い溜め息と共に肩の力を抜いたと思うと、小さく「そうだよ」と言った。
「知ってる。……おれが作ったんだからな」
 嵐は息を飲んだ。
「作った、って……でもあれは」
 先刻のやりとりが思い出された。
 三つ塚には主がいる。主が言うには自分は意図せず、ここに埋められたと言う。では、埋めたのは今目の前で顔をしかめている男だというのか。
「もう何十年前、子供の頃……」
「ちょっと待って下さい。いや、何が何だか、少し座りませんか」
 自分の頭の中で整理したはずの情報に新たな情報が入り混じり、混乱を隠せない。顔を軽く覆って、話そうとした笹山に座るよう促す。素直に従った笹山は社の前の小さな段差に腰掛け、嵐もその隣に落ち着いた。
 中空を見つめて内容を整え、端的に聞く。
「……何を埋めたんですか」
 落ち着いた自分の口からは驚くほど低い声が出た。出した当人も驚いて口許を覆うが、笹山はそれ以上に驚いた表情を見せる。恐らく声ではなく、その内容に。
 質問の内容を憚ってはいられない。夕闇はもう辺りの色を食らい始めている。色彩を失った竹はそのまま覆いかぶさって、聖域を飲み込もうとしていた。
 小さく嘆息し、笹山は言葉を吐き出す。
「狐だよ」
 言いながら、彼の体が一瞬小さくなったような気がした。溜め込んでいたものを吐き出したからか、いかつい肩や顔の雰囲気に、幼い頃に置いてきたのであろう柔らかなものが宿る。
「……老いた狐だった。前の当主……おれの親父は潔癖でね、自分の庭や畑を荒らすのは何であれ容赦しなかった。ここの竹もそうだし、あの狐もそうだった」
 あの、と言って三つ塚を見る。三つ並んだ塚は静かに笹山の話を聞いているようだった。
「ただ畑に入って寝てただけなんだ、あいつは。日当たりも良くて暖かいから寝てただけで、おれはあいつが可愛くて仕方なかった。何せ、狐なんて初めてだったからな。見てるだけだったが」
 ぼんやりとした目で外界へと続く道を見つめる。

- 158/323 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -