「何だ、あの化け物屋敷の息子か、それじゃあ」
「……はあ、まあ」
 いい年をした人間の口からまで自分の家を化け物屋敷呼ばわりされては、もう言い返す気力も起きない。幅広い年齢層の間で、頓道の家は化け物屋敷と認識されているようだ。それだったらいっそ、名乗らずに化け物屋敷の息子です、と言った方が早いのではないだろうか。
 少々卑屈に考えていると、男は少しだけ警戒を解いたような口調で聞いた。
「その息子が何を確かめるって言うんだ」
「……いや、ちょっと興味があったんです。ここの氏神さんがどうなってるのか」
「興味?」
「誰も管理していないでしょう、ここは。だから氏神として本当に機能してるのか気になったんですよ」
「化け物屋敷の息子は神主にでもなったのか」
「……違います。ただ、機能していないのはあまりいい状況とは思えません。実際、子供たちの間ではここで変なおまじないが流行っているようだし、そこの三つ塚にしても正体不明ときてる。放置していいわけがないのに、ここを管理するはずの人は管理を放棄しているから、どうだろうと思って」
「……悪かったな」
「は?」
 むすっとした顔で男は腕組みをする。
「おれがその管理するはずの人だ」
「……え」
 嵐が驚いたのには二つの理由がある。
 一つは思いがけず、笹山本人に出会ってしまったこと。直接、話を聞いた方が楽だと考えてはいたが、氏神という小さな信仰の支えすら放棄する人間とまともに話が出来るとも思えず、それは最終手段ぐらいに構えていたのだ。一足飛びで目の前に現れた最終手段に驚くのは無理もない。
 もう一つに、そんな経緯を持つ人間が、嵐が行おうとしていた事に腹を立てていたことだ。管理を放棄する一方であんな態度を取られれば面食らう。
 だが、嵐のその態度が笹山にすれば馬鹿にしたように映ったのか、益々顔をしかめて笹山は声を低くした。
「こんな神社のはしくれみたいなの、何が信仰だ。氏神だなんて馬鹿馬鹿しい。隣だからってうちに管理を押し付けておきながら、結局、皆見て見ぬふりじゃないか。それでうちばっかりに非難がましい目を向ける筋合いなんてない」
 あんたも、と笹山は嵐を睨み付ける。
「わざわざ、あんな子供の遊びを持ち出してまで講釈たれに来たってわけか」
 否定しかけてひっかかるものを覚える。笹山の言葉を反芻し、嵐はぽつりと呟いた。

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