「なんやの。発言は自由やろ」
「……別に」
 薄く開いたままのカーテンを横目に片膝を立て、頬杖をつく。ついでとばかりにぽそりと恥ずかしくないのかよ、と呟いた。
 だが小声で放たれた非難の言葉を鷹居の耳は聡く拾い上げ、丸イスをずるずる引っ張って嵐に詰め寄る。
「あんた、友達おらんやろ」
「やっぱりわかるか」
 鷹居としては精一杯の嫌味のつもりで──大概の人間はここで言葉に詰まるものなのだが、意に反してあっさり返ってきた言葉の味気なさに脱力する。
 一人で勝手に挑んで勝手に惨敗した鷹居を怪訝そうに見やってから、カーテンの向こうの二人をちらりと見た。
「……絶対、仕事押し付けたるで」
 恨み辛みを述べるような声で言われても実感がわかない。
「料金取るからな」
 振り向かずに言う。それが聞こえたのかどうかはわからないが、鷹居はふん、と鼻を鳴らしただけだった。それからからかいのこもった口調で尋ねる。
「出たらへんの。さっきお会いしたもんですけど、って」
 言われてみればそれも面白そうだった。神社で出会った三人が何の因果で病院でも出会ったのか、話し合えばそれなりに楽しいだろう。
 だが。
「……出歯亀」
 鷹居に向かって言う。言われた当人は怒りを沸点にまで高めたが、マナーの壁までは破れなかったようだ。小声で抗議されたところで迫力に欠ける。
 また妙なのに絡まれたな、とのんびり構えてもう一度、二人を見た。彼女は勿論、ようやっと顔をあげた清史の顔にも溢れんばかりに笑みが零れている。なるほど、清史が本当に聞きたかった声は彼女の声だったのかもしれない。
 自身で憶測をつけ、嵐は静かにカーテンを滑らせた。
 視界の端に映ったチケットは紙くずのようだったが、少し嬉しそうにその身を縮めている。
 そしてカーテンはゆっくりと、その幕を閉じた。



終わり

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