しかし半瞬後には、いや、それは傲慢が過ぎる考えでもあるか、と内心で自分の心に喝を入れる。それでも、元気のない様子を間近で長い時間、目にするのはやはり心苦しかった。
 狐々のそんな心のやりとりが聞こえたわけでもないだろうが、葛は狐々の表情に目を止め、窓を閉めた。
「せっかく、あなたと一緒にお出かけするのに、私ときたら自分のことばかりでしたね。ごめんなさい、狐々」
 首を傾けて謝る葛に、狐々は顔の前で手を振ってみせる。
「い、いいえ、そんな滅相もございません。姫様はずっと杜のことばかりお考えなのですから、少しはご自身のことをお考えにならないといけないのです」
 そこまで言ってから狐々は、はっ、と気付いたように、葛へ勢い込んだ。
「決して大老会での話のことではありません!」
 目を丸くして狐々の勢いに応じた葛は、「申し訳ありません」と自分の言動に恥じて顔を赤くする狐々を見て微笑んだ。
「ありがとう、狐々。……でも、そのことも、本当はもっとよく考えなければならないのです」
 狐々は顔をあげた。
「もっと前から、そのことを考えるべきでした。そうすれば、このように大老会の手を煩わせることも、皆に心配をかけることもなかったのにと……後悔先に立たずとは、正にこのことだと痛感するばかりです」
 狐々はたまらなくなり、震えそうな喉を励ました。
「……姫様は、ご自身の気持ちが大事ではないのですか」
 わたしが、と続けた声が微かに震える。
「わたしが苦しかった時、姫様はわたしにそう仰いました。自分の気持ちを大事になさいと言われて、本当に……本当に心が軽くなったのです」
 狐々が葛を見据えると、葛は物悲しそうに笑った。どうしてか自分が泣いてしまいそうになるのを堪え、狐々は言った。
「いつか、教えてくださいね、と姫様は仰いました。でも、わたしはあの時の気持ちを言葉にすることが出来ません。だから、お聞きしてもよろしいですか? わたしはちゃんと、姫様にお教えすることが出来ていたのでしょうか」
 静かに聞いていた葛の顔から、みるみるうちに笑顔が消える。目を大きく開いて顎を引き、ぴしりとした姿勢で聞く姿は本当に驚いているようだった。
 葛にとっては、自分でも気付かなかった場所にあった扉を、狐々に指し示してもらったような、そんな新鮮な驚きだった。

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