嘘吐き姫は空を仰ぐ



「ま、そうなるよねえ……でも本当だよ。だって、私たちは今もその威力を示されてるんだから」
 不審そうな表情から一転、ダスクは主が何を言おうとしているのか図りかねた。
「……はい?」
 ルセイアは地面を指し示す。
「この辺り一帯の土地はね、とっても大きな化け物の背中の上に乗っているの」
 明日の天気を告げるような気軽さでルセイアは言い放った。だが、その気軽な物言いが内容の精査を甘くさせる。ダスクはこの期に及んでルセイアが冗談を言っていると思った。
「……そうやって誤魔化してうやむやにするつもりですか。俺がそれを信じると?」
 ルセイアはことさらに静かな瞳で従者を見据えた。
「怒らないで、って言ったよね」
 凪いだ海のような瞳は、見つめる者の顔をよく映した。そしてその内情までも暴かれるような気がし、ダスクは思わず目を背ける。あのお転婆は、こんな目をして話す少女だったろうか。
 目を背けたダスクを咎めるでもなく、ルセイアは淡々と語る。
「どこで生まれたのかは誰にもわからない。でも、ある日突然現れて、たった一日で一つの国を滅ぼしてしまった。理由もなく、ただ単に壊すだけ壊して、次の国を襲う……化け物が現れて一年くらいで、大陸をひしめきあっていた国々の半分は壊滅したんだって」
 ダスクはちらりとルセイアの様子を窺った。手に持ったコップを強く握りしめ、横目で自分を見るダスクを認めてにこりと笑う。ダスクは慌てて目を背けたが、観念して大きく嘆息した。
「……仮にそれが事実だとして、現状に何の関係があるというんです」
「ご先祖は本当に強かったけど、強すぎたということ。自分の国に化け物が来るとわかった時、迎え撃つことは出来ても国を守ることは出来ないって考えたんだよね」
 ダスクは目を細めた。お伽噺のように聞いていたが、もはや耳はルセイアの言葉を一つももらさず拾い上げている。彼女の言葉は地に染み入る雨のように、淡々とダスクの中へ降り注いでいた。
「だから、民を全て移動させたの。自分だけ残って、迎え撃てるように。でも、化け物の脅威はご先祖の想像を遥かに超えたものだった。相討ちどころか、これを討てば自分は間違いなく死ぬし、倒したとしても化け物の体からは永遠に毒が流れ出て、何ものも住めない地になるって。だから、ご先祖は作戦を変えたの。相討ちから、時間をかける方へ」
 ルセイアはお茶を一口含んでから、話を続けた。
「ご先祖はまず、大地に強力な浄化の魔法をかけた。そしてそこに、魔法をかけた杭で化け物を打ち付けて、その上から同じ魔法を宿した土を何層もかぶせたの。それが、今私たちの足の下ってわけ」
「……威力が凄すぎて俺には全く実感がわきませんが」
 ダスクは腕組みをし、微かな抵抗を講じてみせる。だが、無駄な足掻きとばかりにルセイアは苦笑した。
「それでいいんだよ。ご先祖の希望としては誰にも悟られないまま、化け物を倒すことだから」
「では、城が沈み始めたことは? その化け物が動き出した証拠ではないんですか?」
 ルセイアは頭を振る。
「むしろ、その逆。化け物を打ち付けた杭は全部で十一本あるんだけど、その中の一本が心臓を捉えているの。だから、心臓の杭には代々『重石』が必要だった。長い時間をかけて杭を打ち込めて、最後には貫けるように」

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