遊園地の夜



 腹に響くような轟音と共に、観覧車の背景に大きな花火があがる。白に黄色、赤や青色など多種多彩な色と形を備えた花火が次々と打ち上げられ、方々で歓声と拍手が沸き起こった。
 レリーは知らぬ間に込めていた力を肩から抜く。そして腰に手をあて、使い物にならない相方を見下ろした。
「大丈夫みたいよ」
 花火は止まることを知らず、矢継ぎ早に打ち上げられていく。
「よっぽど嬉しかったみたいねえ」
「……この音きつい……やべえ吐く……」
 夜空に華を開かせる時の轟音がロートゥの胃を揺らし、辛うじて堅牢さを保っていた堰が壊れようとしていた。
 レリーは呆れ顔で嘆息する。
「あんた本当にしっかりしなさいよ。後で介抱してあげるから」
「それは死ぬ」
「膝枕で寝かせてあげる」
「ごつごつして痛そう……」
 轟音が揺らすのはロートゥの胃だけではなかった。花火が花開くたび、風景の一部が揺れて陽炎のように消えてゆく。木々に電灯、アトラクションから喝采する人々まで、花火が咲くごとにそれらは闇の中に溶け込んでいった。
 レリーはまあ、と言って一歩進み、ロートゥの横にしゃがみこむ。
「今回は褒めてあげるわよ。あんたいい相棒だわ」
 言いながら腕を出した。青い顔でそれを見たロートゥは一息つくと、レリーと腕をぶつけて互いの健闘を称える。
「……でも今回限りな」
「次はあんたの相棒、ご指名するからフォローよろしく!」
「邪魔してやるから覚悟よろしく」
「じゃあ、あんたで我慢するわよ、もう」
「……何をだよ!?」
 不毛な言い合いを続ける間も花火は咲き続け、風景は消えていく。
 夢が、覚めようとしていた。



 ふ、と重い布がめくられるように、エルフは目を覚ました。視界に入るのは白い天井である。見たことのない天井だ、と思うと同時に、意識の端に引っ掛かっていた布もその身を避け、彼の意識は完全に現実へと舞い戻ってきた。
 だが、頭を動かそうにもあまりの重たさに動くことが出来ない。それは頭だけでなく、四肢もそうであった。鉛でも埋め込んでいるのかと思うほどに重く、そのもどかしさが目覚めたばかりのエルフの体に負担を与える。
「あなた」
 限られた視界に見慣れた顔が登場する。妻のエリゼの顔だった。心配そうな、しかしほっとしたような表情は疲労に満ちており、彼女のこんな顔を見るのは初めてだった。そこでようやく、断片的だった記憶が次々と繋がれて形を成していった。

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