遊園地の夜



 先を行くロートゥの体が放物線を描いて降下する。しかし、途中で見えない足場を蹴り、再び宙へ舞い戻った。レリーも同じ足場を辿って遊園地の夜を跳躍する。
「ロートゥの力は現実に引きずり出す力だけど、それはつまり夢に作用出来るってわけ! だから、なんでもありって言ったでしょ!」
 レリーの忠告通り黙って聞くエルフの様子に問うような気配を感じ、そしてその内容に察しがついたレリーは笑った。
「察しがいいわねえ! 副作用はさっきと一緒! しかも使える時間がおっそろしく短い上に、周りの人間がその恩恵にあやかるにはあいつの尻を追っかけなきゃいけないのよ! あー笑える!」
「……後ろから高笑いかましてんじゃねえ!」
 前を行くロートゥが体を捻って宙返りをしながら抗議した。夢の中だから出来る芸当なのか、そもそも身軽なのか、こうして宙を行く身の上でそれを考えるのも馬鹿馬鹿しい気がし、エルフも声をあげて笑った。
 これに驚いたロートゥが一回転しながら後方を確認し、抱えるレリーも面食らったように目を丸くする。しかし、すぐにその表情を苦笑に変えた。
「あなた、その気持ち大事になさいよ」
 笑いをおさめたエルフが見上げると、レリーは片目を閉じて「喋らない」と忠告を重ねた。
 頭上に満天の星を頂き、足下には人工の星がきらめく。片や寄り添うようなささやかな光、片や多種多彩な色と形に満ちた光と忙しないことこの上ないが、目に鮮やかな光景は決して忘れたくないと思わせるものだった。
 顔を打つ秋風は涼やかで、ともすれば興奮で火照りそうになる顔を鎮めてくれる。まるでもう一人の自分がなだめてくれているようだと思い、エルフは顔を綻ばせた。そして跳躍の後にある降下の際に地上を見つめると、自らが楽しむために歩むだけだった人々がこちらを見上げて手を振っていた。
 エルフは押さえていた帽子を軽く上げて挨拶する。誰も彼もが自身の背中を押してくれているとわかった。
 それは、自分自身でさえも。
「着くわよ!」
 レリーの声に視線を前方へ戻す。観覧車が間近に迫り、エルフはすっかり少年の頃のエルフへと心も体も戻っていた。あの頃の弾けるような色彩の世界が目に飛び込んでくる。
 ロートゥが黄色のゴンドラに音もなく降り立ち、扉を開ける。その中には見慣れた、しかし驚くほどに懐かしい彼女の姿があった。
 レリーは最後の足場を力強く蹴り、前に抱え直したエルフを開いた戸口めがけて放り投げる。
「わっ!?」
 小柄な少年となったエルフの体は吸い込まれるようにゴンドラへ入り、あまり上品とは言えない着地を果たした。だが、怪我と言えるものはなく、レリーが最大限の努力を払ったのだということは身に染みてわかった。
 そこまで考え、エルフははたと気づく。
──レリーって誰だっけ?
 本の登場人物なのか、はたまたどこかで会ったのか。とても親しみのある名前であることは間違いないのだが、曖昧な記憶は目の前に差し出された白い手一つで一気に吹き飛ばされてしまった。

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