遊園地の夜



 エルフは顔を上げた。
「わたしにも頬の赤い少年時代があったということさ」
「はっきり言っちゃいなさいよ。好きな人がいたって」
「……恥じらいというものがね」
「その年で持ってたってあとは墓の下でしょうが。そういうのは使うタイミングが肝心なの」
「とは言ってもねえ……」
 頭をかくエルフへレリーは問いかけた。
「で? その思い出ってのはそれに関係あるの?」
 ロートゥがエルフの言葉に食いついたのを、レリーも見逃してはいなかった。
 二人の表情にエルフもこれが大事な質問なのだと気づき、単に覗きこむだけだった記憶の箱を丁寧に開いてみる。
「一人、とても頭のいい子がいてね。器量も良かった。彼女はよくもてたし、わたしも彼女が好きだったが、告白する勇気はなかった。だが、どうにかして話したかったからよく相談を持ちかけていた。勉強から私生活から、とにかく必死だったよ」
 頷きながらレリーは聞く。仕事であっても人の恋の話は聞いていて楽しい。その話をする時の語り手の表情が好きだし、そんな表情をさせる人物を想像するのも好きだった。
「いいじゃない」
「そのせいかな、彼女も時々相談を持ちかけてきてくれるようになったんだけどね。わたしに解決出来る相談なんかほとんどなかったよ。でも、わたしは嬉しかった。だから可能な限り応えるようにしたし、それが出来ない時はとにかく話を聞いた」
 エルフは遠くを見透かすような目になった。
「あれはいつだったかな……そうそう、秋だ」
 エルフがそう言った途端、外灯や電飾に照らされていた木々が一斉に色づいて葉を落とし始めた。多くの足音の中に枯葉を踏む音が混じり、夜の遊園地に燃えるような紅葉が彩りを添える。心なしか、袖から出た腕も肌寒い。
 夢が変化している。
「友達の親が何かの懸賞で遊園地のチケットが当たったとかで、送ってきてくれたことがあったんだよ。でも数が少ないからくじ引きで行ける奴を決めようという話になって、友達の何人かと、彼女と、運よくわたしも当てることが出来た」
 ロートゥはエルフに悟られぬよう、辺りに視線を走らせた。彼の話に応じるように、学生服の少年や少女の姿がちらほらと視界に混じるようになる。彼らは歓声をあげながら夜の遊園地を駆け抜けていった。
「そう、そうだ……あの時は本当に楽しかった。出来たばかりの遊園地だから目新しいアトラクションばかりで面白かったし、彼女と遊ぶことが出来るなんて夢のようだった」
「それは、良かったわね」
 レリーが相槌を打つ。テーブルの上で組んだ手に秋風が吹きぬけた。
 エルフは長く、深い息をついた。
「でも、わたしは間違えてしまったんだ。あの時、彼女に呼ばれたのに、わたしは自分じゃないと思ってしまったんだ」
 ロートゥは丁寧に問う。
「……何をですか?」

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