遊園地の夜



「場所としてはどこもひっかからなかった。でも、時計があって、時間的制約があって、夢を認識出来るってあたりで、誰かと待ち合わせてるって筋は当たっていると思うのよね」
「俺もそう思う。でも遊園地のアトラクションはどこも駄目だった」
「遊園地のバックヤードは?」
「関係者や専門職に就いてない限りはさして関わりのない所だろう。それに、これだけの人数を抱えてそこまで作る余裕があるとは思えない」
「じゃ、どっか見落としてるのかしらねえ……」
 建設的な会話を繰り出す二人を眺め、エルフは思わずくすりと笑った。その笑い声に気づいた二人が振り返ると、エルフはますます笑みを深いものにする。
「いや、すまない。なんだか楽しく思えてしまって」
「気持ちの切り替え早いのねえ」
「そうじゃないよ」
 エルフは一息ついて、テーブルの上に組んだ手を見つめた。
「こうして一生懸命、誰かと相談し合うっていうのがね、学生の頃以来だなと思い出したんだ」
 レリーとロートゥはエルフを見つめる。
「今はなかなか、こういう風に自由に相談出来る相手もいないからね」
「奥さんは違うの?」
 エルフは苦笑した。
「自由には難しいよ」
 それ以上の追求を避けるように、端的に答える。黙り込む相方の隣でロートゥが口を開いた。頭の奥で、ちらちらと小さな光が瞬いて思考を刺激していた。
「学生の頃はあったんですか? そういうことが」
 考え込む表情になり、エルフはその思い出に触れて柔らかい笑みを口元に浮かべた。
「……そうだね。あったよ。十一年生の時に」
 聞きなれない言葉に疑問符を点滅させている二人に対し、エルフは小学校から高校までエスカレーター式の学校に通っていたと教える。十一年とは高校二年相当の学年だった。
 レリーはそれを聞いて眉をひそめた。
「事前に調べた限りではなかったわよ、そんな情報」
「公にはしていないからね。これでもわたしは有名人だから」
 嫌味のない言い方にレリーは鼻から息を吐く。
「知ってるわよ」
「十二年……まあ、普通で言えば高校三年だね。大学は別だったから、卒業と同時に学校を出ることになる。だから、その前の学年になると外と接する機会も増えてくるものでね。それが良かったんだと思うが、十一年生というのは一番自由な学年だったんだよ。議論も相談も活発だった。他愛もない内容だけどね」
 それまで学校内で完結した生活を送ってきた彼らにとって、外へ繋がる風穴が開く年であり、多くの自由が許される年でもあった。日々の暮らしを疎ましいと思ったことはないものの、あの時の輝く毎日に比べれば、それまでの数年間は灰色だったと言ってもいい。
 毎日が色と光に満ち、誰もが活気に溢れていた。
 その中で特に目を引いた生徒がいたことをエルフは思い出し、頬を緩めた。
「……くだらないことばかり話していたような気がするが、思い出を一番作ったのはあの年だったな」
「思い出?」
 ロートゥの思考の網に光るものがひっかかる。

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