遊園地の夜



 それを見かねたレリーが大きく溜め息をつき、真剣な表情のロートゥの頭を盛大に引っ叩いた。頭が大きく前へ動くほどの力で叩かれたロートゥは、目を白黒させてレリーを見上げ、突然の挙動にエルフも呆気にとられる。
「しっかりなさい。私たちが焦ってどうすんの。一番怖い思いしてるのはこの人でしょう」
 ロートゥは視線を落とし、小さな声で「すまん」と詫びる。短い一言に焦りは感じ取れなかった。
 気持ちを切り替えるようにエルフへ大きく頭を下げて再度詫びると、替えの地図を取ってくると言ってロートゥは席を立つ。それを見送りながらレリーは椅子に腰かけた。
「ごめんなさいね。ちょっと予定外すぎて私もあいつもテンパっちゃって」
「ああ……ああ、いや、わたしも申し訳ない」
 気遣う様子を見せるものの、レリーの表情には先刻までの楽観は見られなかった。それが何よりも現状の危急さを物語る。エルフとて、そんな顔を見て和やかな気分になれるほど図太い神経は持っていない。だが、彼には年齢という、細い神経を補強する柱があった。彼の年齢の半分ほどであろう二人にばかり任せ、何も出来ない自分にあぐらをかけるほど愚かではないという自負があった。
 エルフは椅子に深く腰掛け、何度か深呼吸をした。
 真っ黒に塗りつぶされた地図を見ると、胸がつまるような思いがする。視覚的な意味合いよりも、結果が出せなかったことに対してだった。
 どれだけ頑張ったところで、出せない結果というものも往々にしてあるものだ──
「……ちょっと。なにやってんの」
 ぱしん、と頬を軽く叩かれ、エルフは我に返る。見れば、身を乗り出していたレリーが椅子に戻るところであり、その隣で地図を持ったロートゥが心配そうに覗きこんでいた。
「自分を追い詰めないで下さい」
 塗りつぶした地図の隣に、新しい地図を広げる。新しい紙の匂いが広がり、塞ぎこんだ気持ちにささやかな風を通した。
 ロートゥの言に頷いて、レリーが言葉を続ける。
「そうよ。あなたがここで考えたことや思ったことは、全部この遊園地に反映されるんだから。ほら、言わんこっちゃない」
 ほら、と指さした先に立つ外灯へ目を向ける。すると煌々と輝いていた明かりがふっと消え、光に跳ね除けられていた影が一瞬にして外灯の足下から這い登り、覆い隠してしまった。
 周囲を歩く人々はまるで気づかない様子で、外灯はものの数秒でその場から姿を消す。それも外灯だけでなく、周囲の風景までも切り取って消えたため、風景に不思議な黒い穴が開いた。不思議と誰もがその部分を避けて通るのだが、まるで気づいた様子はない。
「ああなるの。気をつけなさいね」
 そうするよ、と力のない声でエルフが答える傍ら、頼みの二人は思考を新たな地点に置き換える準備をしていた。

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