遊園地の夜
レリーが投影し、エルフが判断を下し、ロートゥが斜線をひく。単純作業の連携は回を重ねるごとに速度を増し、十五分もかからないうちに地図の四分の三を網羅した。名称のついた場所からそうでない場所まで、待ち合わせに使えそうな場所は全て投影したが、残念ながらゴールには至らなかった。斜線で埋め尽くされた部分は真っ黒な顔で、恨めしそうに三人を見上げる。
空白地帯となった残りの四分の一は童話を模したエリアで、いくつかは既にチェックされていた。レリーはエルフの腕時計を覗きこみ、小さく息を吐く。安堵の息であった。
「残り四十五分、まあ大丈夫でしょ」
ロートゥも心なしか柔らかな表情になり、エルフもそこに自分の思い出せない「目的」があるのだと思うと俄然、やる気がわいた。何もかもわからないばかりで、いくぶん、居心地の悪い思いをしていた自分を思い知らされていた。
三人はこれまでの速度を維持して作業をこなしてく。エルフの答える声以外は一言も挟まず、黙々と手を動かしていった。だが、地図を塗りつぶすごとに三者の顔へ焦りのようなものが浮かび上がる。まさか、という思いがそれぞれの胸に去来しており、最後の一か所を塗りつぶした時、それは一つの形となって予定外の結果を叩きつけた。
レリーは地図から体を離して溜め息をつき、ロートゥは口許に手をあてて地図へ見入る。
エルフは茫然とした様子で真っ黒になった地図に見入った。
「……嘘でしょ」
苦虫を噛み潰したような顔でレリーが言う。
彼らは確信がないにしても、この作業が答えへ至る道だと経験則から直感的に感じ取っていた。だから迷いがなかった。
だが、答えと思った道はまさかの行き止まりへ三人を導いたのである。地図にこれ以上空白の箇所はなく、そして、エルフの知らない場所もなかった。記憶の継ぎ合わせから生まれたこの遊園地を、エルフは完全に知り尽くしていた。
「……ええ、と……」
重い沈黙に耐えられないかのように、エルフは声を発する。だが、次に選ばれるべき言葉が思いつかない。それが、彼の内心の混乱を表していた。
二人に先んじて一足早く思考の淵から舞い戻ってきたロートゥは、口に当てていた手を外して息を吐く。
「本当に、これ以上思いつく場所も知らない場所もないですか?」
半ば、縋りつくような問いであった。だが、自らの記憶の箪笥をさらいつくしたエルフには残酷な問いでもあった。
「……ないよ。わたしはこの遊園地をよく知っているようだ」
ロートゥは再び黙り込み、何やら考えをこねくり回しているような顔になった。発展の見込めない考えにどんどん足が絡め取られていく。「最終兵器」を使うべきか、しかしエルフの年齢を考えるとあまりに負担が大きすぎる──出口の見えない思考の迷路はロートゥを奥へ奥へと引きずり込んでいった。
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