遊園地の夜
少なくとも、この遊園地を想像する土台になった場所は、彼が現実に行ったことのある場所のはずであった。そうでなければ、ここまで夢を緻密に作ることは出来ない。実体験は耳学問に勝る想像の種である。
まさか、そこまでレリーの頭の中にあったとは思えないが、彼の無用な機転はそれなりに役に立ったというわけだった。もっとも、今でもレリーの黄色い悲鳴が耳に残り、不快感の残滓は離れようとはしてくれなかった。
まずは連れ回された場所、次いでその時目に入った場所の中で、エルフがはっきりと知っていると言える所を潰していく。それでも、地図の半分も消すに至らなかった。簡易化された地図のイラストだけでは、わからない部分が多い。
そう言ったエルフに応え、レリーは「じゃあ、私の出番」と言い、袖をまくった腕をそれぞれひとなでする。すると、手の動きに合わせて黒い紋様がレリーの両腕に浮かび上がった。文字とも図形とも区別のつかないそれは一定の規則性をもって、レリーの手首から肘にかけてを彩る。不思議と毒々しさは感じられず、エルフはごく自然に美しいと感じた。
目をみはるエルフにレリーは手を振って笑った。
「やあだ、小説家がこんなことで驚かないでよ」
「いや、誰でも驚くだろ普通……」
「あんただってあるじゃない」
「俺にあるから普通ってわけじゃないんだからな?」
「まあ、それはともかく、どれを見たいの?」
不毛な会話をあっさり打ち切り、レリーはエルフに向き直る。
「見れるのかね?」
「これは魔術師の腕ってやつでね、そっちの野暮男にも同じのがあるけど、夢の中だけで使える術が一つだけ宿ってるの。でも、それぞれ内容は違っていて、私の場合は文字でも絵でも、夢の中で表現されたものなら何でもその実際の姿を投影出来るのよ。この手の上限定だけどね」
「それはすごい……」
「でしょ? 夢があって素敵よねー。でもそこの男なんかあれよ、最終兵器って呼ばれてるんだから」
悪意の込められた笑みを含んで、レリーはエルフに耳打ちする。しかし隠す気もない声はロートゥに筒抜けであった。
うんざりとした表情のロートゥを指さし、レリーは頭上に疑問符を点滅させるエルフへ教えてやる。
「ロートゥの場合は夢の主人を現実に引きずり出す力。物凄い威力だけど引きずり出した後が最悪でねえ。ほら、二日酔いの朝ってわかる? 起きてもぐらぐらしてるような、気持ち悪い感じ」
うん、とエルフは頷く。
「引きずり出した相手も、ロートゥ自身もそんな風になっちゃうから、後始末が大変って私らの中での評判は半々。ハイリスク、ハイリターンってわけね。だから最終兵器」
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