遊園地の夜



 三人はカフェに移動していた。海賊船を模したカフェであり、椅子もテーブルも樽を使って出来ている。
「子供の時に映画か何かで見たんだよ」
 テーブルの表面をなで、エルフは嬉しそうに言った。それを眺めていた二人も、その様子にほっと肩の力を抜く。エルフの様子を微笑ましく思ったのもあるが、それ以上に、彼の発言には大きな意味があった。
「その調子よ」
 レリーはカフェの入り口に置いてある遊園地の地図を持ってきて、テーブルに広げた。覗き込むエルフの横で、ロートゥが懐からペンを取り出す。
「どうするんだい?」
「あなたにだけ、腕時計があって時間がわかる」
 レリーに指さされ、エルフは腕を持ち上げた。二十年付き合った、使い込まれた腕時計である。ガラスには多少の傷、長い間同じ場所を使っていたベルトの穴は歪んでいる。それが手首にあるだけで落ち着く、相棒のような存在でもあった。
「時間を忘れて楽しむはずの遊園地で、あなたは時間を気にしなきゃいけない」
 エルフは再確認するようなレリーの言に頷いた。
「わたしは誰かと待ち合わせしているというんだね」
 そこまで言ってから、はたと気づいたようにエルフは言葉を足した。
「……それが、わたしの知らない誰かというわけかい?」
「ご明察。理由だの何だのは聞かないでちょうだい、私たちにもわからないんだから。でも会えば、少なくともあなたにはわかることになってるはずよ。会えるよう、自分にヒントを残してるんだし」
 ヒント、と呟いて腕時計を見つめるエルフの顔を両手で包み込んで上げさせ、レリーは凄みを効かせた声で言う。
「考え込むのは後、行動を先にしなさい」
 レリーがエルフから離れると、ペンを持ったロートゥが口を開いた。
「誰かと待ち合わせるということは、その為の場所があるはずです。ですが、あなたはそれも知らない。だから、まずあなたの知っている場所を地図で潰していきます。その後、あなたの知らない場所をピックアップして当たっていきましょう」
 多分、と言いながら、ロートゥはレリーに引きずり回されたアトラクションに手際よく斜線を引いていった。
「そんなにはないと思いますよ」
 レリーに連れ回される道中、エルフを見ていたロートゥは気づくところがあった。
 彼はこの遊園地を熟知している。

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