遊園地の夜
「本当にねえ、これで正気保ってられるんだから小説家って信じらんないわ。これだけの人間が頭ん中にいたら普通発狂しない?」
「そこまで意識したこともないからねえ……」
苦笑するエルフをロートゥは横目で見やり、前方へ視線を戻した。メリーゴーランドが沢山の歓声と電飾をまとって回っている。
「ここにいる全てに何かしらの既視感を感じると思います。全く見覚えのない人でも」
ロートゥの言葉にエルフは頷く。見知らぬ人であるのに、彼らに感じるのは親や子にも感じたことのない親近感だった。まるでもう一人の自分が全く別の姿をまとって歩いているようである。
「この遊園地は来場者も含め、あなたが何らかの目的で作りだしたものです。ですが、あなたはその目的を忘れてしまっていて、鍵にしてもよくわかっていない。なのに、あなたは来場者があなたの作ったキャラクターだとわかりましたね」
「ああ……それは勿論」
「あなたが生み出した人たちだから?」
エルフは頷く。
「なら、話は簡単よ」
ロートゥの前に立つレリーが腰に手をあてて言葉を引き継ぐ。
「あなたは今ここで初めて自分の作った世界を認識出来たわ。夢の尻尾を掴んだの。だから、その中であなたが認識出来ない人を探すのよ。それが現実への鍵穴ってわけ。あー私のこの洞察力の鋭さ! 見せるのがあんたで死ぬほど残念だわ」
最後の言葉はロートゥに向けられたものであり、対するロートゥはまともに相手する気も失せ、適当にあしらってエルフに向き直った。
「……話はわかりましたか?」
ぽかんとしていたエルフは視線を下に向け、頭をかく。
「わかりはしたんだが……私が知らない人を探せということだね、つまりは」
「そうです」
「……この中からかね」
エルフの言わんとするところがわかり、同じく話を聞いていたレリーがエルフの前にしゃがみこむ。
「やあねえ、私たちが何のために来てると思ってんの」
「……半分遊びだろ」
「キスするわよ」
「姐さん、それ武器にしたら終りだろ……」
「女の武器は使える時に使わないと、いざと言う時に錆びてちゃ話になんないでしょ」
「いざって何だ、いざって……」
頭を抱えたくなったロートゥはさて置き、レリーはエルフに向かって片目をつぶってみせる。
「任せなさい。途中まではね」
レリーは上着を脱ぎ、ワイシャツの袖をめくった。その下から現れたのは女の細腕とは程遠い、均整のとれた筋肉質の腕であり、身体の美は心の美と日頃から公言して憚らない彼の信念を見事に表している。
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