遊園地の夜



「大当たり。ここの客は全部、あなたの小説の登場人物よ。メインもモブも、名前のない通りすがりも含めて」
 エルフはレリーと周囲の風景とを見比べた。その顔には明らかな戸惑いがある。
「だが……」
 乾いた喉を湿らすように唾を飲み込み、エルフはレリーを見上げた。
「だが、彼らに見覚えはない。わたしが書いたなら、何かしらぴんとくるものがあってもいいようなものなのに……何も……」
「バカねえ、当たり前でしょ。登場人物って言っても、あなたの頭の中だけの人なんだから。世に出てるのもそうでないのも、全部ひっくるめて文字だけの存在を全部把握出来る方がどうかしてるわ」
「頭の? わたしのかね?」
 レリーはいよいよ呆れたようにエルフを見下ろした。
「あのねえ、私はともかくそこの男にそんな感性あるわけないでしょ。女一人まともに相手出来ないくせして、頭の中ではこんなに女の子増産してたら私本気で怒るわよ」
「……なんで……」
「こっっっんな不健康な奴があの人の相棒ってのが辛抱たまらないって話!」
「頼むから相棒をここで引き合いに出さないでくれ……」
「これくらいでめげてる奴がこれだけの人数の記憶を抱えられるわけないでしょ。職業柄、意識的にしろ無意識にしろ、キャラクターをいくつも作ってたってことね」
「はあ……」
 エルフは改めて周囲を見回した。
 親子連れに老夫婦、若い恋人同士もいれば、年季の入った恋人同士もいる。気の合う友人同士でつるんでいる集団や、どう見ても遊園地に不釣り合いな強面の集団もおり、露出の多いドレスに身を包んだ女性たちもいた。夢というフィルターを通して風景を眺めていたためにこれまで気づかなかったが、ルール無制限にしては時代錯誤、この場に不釣り合いな人々が多すぎる。
 そして、誰か一人の風貌に既視感を覚えてしまうと、あとは芋づる式に次々と記憶が蘇ってくるのだった。あの男性の隣にいるのは母親で街のパン屋で働いている、そのパン屋の主人が少し離れた所を歩き、パン屋の隣の郵便局の職員たちがカフェで一服している──一人を起点として次々と糸が繋がっていく。
 だが、中にはどう記憶の箪笥をひっくり返しても出てこない人物もおり、それが無意識が作りだした「次のキャラクター」たちなのだろう。
 あまりの出来事にエルフは笑わざるをえなかった。自分が思っている以上に、自身は骨の髄まで小説家のようだった。
「……わたしがこの人たちを」
 レリーは自身の両腕を抱いて、寒気に耐えるように体を震わせる。

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