遊園地の夜



 どうやら話題が良い方向へ機首を向けたらしいと、エルフはほっとした様子で答えた。
「それはありがたいな。ちなみに、どれを読んだのか聞いてもいいかな?」
「タイトルあんまり覚えないのよねー。とりあえず恋愛ものは全部。あ、最近の推理ものは駄目、あれやめときなさい。見せ場がワンパターンすぎてつまんないわ」
「ちょっと挑戦しようと思ったんだけどね……」
「苦手なものに挑戦して自滅してたらしょうもないでしょ。それは才能のある人がやること。あなたは才能ないけど努力はしてるんだから」
「……これは手厳しい……」
「読者カードとかで言われたことないの? 私、結構書いてるんだけど」
「いや、うん、ちゃんと届いてるよ……」
 段々と落ち込んでくるエルフが哀れに思え、ロートゥが慌てて助け舟を出す。
「ずっと思ってた、ってそれじゃないだろうな」
「ないわよ。ちゃんと仕事関連。だからね、読んだことあるのよ、私。タイトル覚えてないけど登場人物くらいは覚えてるわ」
 登場人物、と口の中で呟いて、ロートゥは思いついたように立ち上がった。
「そうか」
「そういうこと」
「……どういうことだい?」
 つまりね、とレリーは言う。
「この遊園地があなたの無意識が作った夢なら、ここの客も全員そういうことって話」
「わたしが作ったと?」
「大体がイレギュラーなのよ。一人の夢の中にこんなに大量の人がいるってことが。普通はありえないんだから」
 一人の夢の中に登場する人物は限られている。日常的に接する人々であっても、接する頻度によっては夢の中に登場し得ない人物もいるし、たった一瞬会っただけでもその強烈な印象によって夢への登場を果たす人物もいる。
 だが、夢のスライドショーはかなり乱雑で、整理が行き届いていない。一つのスライドで管理出来る人数は少なく、仮に多く登場してもその一人一人に表情がつくような解像度は期待出来なくなる。無意識や記憶が果たす技というのはそういう大雑把なものだった。
 それはレリーやロートゥも例外ではない。彼らもこういう職種についているとは言え、夢を見る。だが、その登場人物を「追い出す」ことが可能だった。
 夢に出てくる人々の名前と顔を記憶の名簿に刻んでおけばそれだけでいい。あとは舞台に登場する演者よろしく、呼び出すメンバーを管理するだけの話だった。そうすれば自分の夢の容量を少なくし、入り込む対象の夢を圧迫させずに済む。
 しかし、今回のエルフに関してはあまりにも通常から逸脱していた。レリーやロートゥの夢から流入した人がいたとしても、それは大河に涙一滴を零したようなささやかなものである。本来ならがらんどうの遊園地が彼らを出迎えるはずが、足を踏み入れた先は盛況な賑わいを見せる遊園地の姿であった。
 とすれば、これだけの観客を管理しているのは、夢の主人であるエルフの他には考えられない。
「夢に出てくる人っていうのは大概が記憶や無意識にひっかかった人なんだけど、それにしてもここは多すぎ。多分、あなたの仕事のせいでしょうけどね」
「わたしが小説家だからとか……そういうことかね」

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