遊園地の夜
ロートゥ自身は、ほとんど初めてと言ってもいいアトラクションに対し、苦手と思うものはなかった。ありったけのかわいらしさを散りばめたメリーゴーランドの馬に乗った自分には寒気がしたが、突き詰めてしまえばただの乗り物である。外観はともかく、乗り物としての苦手意識はどのアトラクションにも持ち得ず、それはエルフも同様のようだった。
ただ、いかんせん同乗者のノリが性に合わない。
ロートゥもエルフもジェットコースターに乗ったとて、大声をあげるタイプではない。終わってからその興奮を口にするような楽しみ方をし、それはレリーの楽しみ方とは対岸にあるものだった。見た目だけは立派な男性が黄色い声で絶叫するのを聞いて、楽しいと思う人間はまずいない。
仕事と称して乗りまわること一時間、犠牲者二人はベンチでようやくの休息を許されていた。
「……遊園地って人の叫び声聞いて楽しむもんなのか」
「あんたアホなの? これだけ遊んどいて感想それだけ? 乾いた感性してるのねえ」
「始終、姐さんの叫び声聞いてて正気を保てる感性なら褒めてやりてえよ」
「別にあんたに聞かせるためのもんじゃないんだから、もっと建設的な方向に使いなさいよ、その感性」
で、とレリーはロートゥの隣に座るエルフに目を向ける。ロートゥほどではないにしろ、疲労が顔に出ている。この年齢にしてレリーによくついて来た方だと、ロートゥは内心で申し訳なく思った。だからと言ってかばってやれる話術も腕力もないのだが。
「ここまで遊んで、なんか思い出すことは?」
「……一応、ほんとに仕事してたのか姐さん……」
「あんた、私が本気で遊んでると思ってたわね……」
「いや、あれはそうだろう……」
一通りの応酬を終え、レリーは改めてエルフに問うた。
嵐のようなアトラクション巡りから解放されたエルフは一息つき、頭をかく。
「……すまないが、何もないようだ」
これを聞いて「まだ乗り足りないのかしら」と呟き出したレリーに、ロートゥは自らの心身の不安を覚え、エルフに続けて問うた。
「本当に何もないですか? 乗っている時でなくても、歩いている時でもいいんですよ」
エルフは必死そうなロートゥに対し、申し訳なさそうに頭を振った。
「本当に何もないんだ。……すまない」
ロートゥが明らかな落胆の表情を見せると、エルフはますます申し訳なさそうな顔になる。お互い、仕事がどうこうというよりも、これ以上レリーの荒行について行くのが耐えられないが故の沈鬱な表情であった。
大筋から脇にそれた所で二人が落ち込んでいると、傍で周囲を眺めていたレリーが声をあげる。
「あ、そっか」
「なんだよ」
またよからぬ企みを考えたのかとロートゥがびくつく前で、レリーは口許に手をあてながら言った。
「私、ずっと思ってたんだけど」
「これ以上ろくでもないこと言ったら俺も怒るからな」
「あんたほど雑に出来てないわよ。……そうじゃなくて、私、あなたの本を読んだことあるのよね」
あなた、とレリーはエルフを指さす。
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