遊園地の夜



「だから、あなたは昏睡しているんです。あなたはこの夢を現実から眺めるという視点を失っているんです。普通に夢を見ててもありますよね、これは夢だと思う瞬間」
「ああ……」
「それが覚醒の切っ掛けになるんです。だから、あなたにはその瞬間を見つけてもらいます」
 ロートゥはエルフの腕時計を指さす。
「あなただけが時間を意識するものを持っているということは、それが鍵です。……今は七時過ぎですね」
 再確認すると、エルフは頷いた。ロートゥはレリーに問う。
「普通、遊園地っつったら何時に閉まるもんなんだ」
 頬杖をついていたレリーはその手から頬を浮かせ、目を丸くしてロートゥの顔を覗き込んだ。
「あんた、それマジ?」
「だって知らねえし。俺、遊園地嫌いだから」
「あんたそれ、人生の九割ドブに捨ててるわよ!」
 レリーは椅子を蹴って立ち上がった。その顔は驚きを通り越して怒りを抱いているようでもあり、しかし、その怒りの由来が理解出来ないロートゥはただただびっくりするだけであった。
「いや、行かなくても別に……」
「あんたがつまんない男ってのは重々承知していたけど、そこまでくるといっそ哀れだわ。いいわ、私が教えてあげる」
「……は?」
「え?」
 ロートゥとエルフが同時に声を発すると、レリーはその体躯に見合った腕力で二人の腕を掴んで立ち上がらせた。
「七時過ぎでこの賑わいってことは、最短でも九時までは開いてる遊園地よ。長くて十時。てことは仕事しながらでも充分遊べるわ」
「いや待て、仕事を……」
「まずはジェットコースターで勢いつけるわよ」
 口では仕事と言いながら、脳内では遊園地を巡るプランが秒速で組み上げられている。もはや仕事の二文字など額縁程度の意味合いしか持たず、その額縁で体裁を整えられたのが遊びの二文字であるのは明白だった。
 浮かれた様子を隠そうともしないレリーにロートゥが抗議しようにも、口では勿論勝てず、そして残念ながら腕力でもレリーの方が上だった。抵抗すればするほど腕を掴む手に力が込められる。
 諦めたロートゥは茫然とするエルフと共に、夜の遊園地へと引きずられていった。



 一応は整えられた体裁のもと、始めはジェットコースター、次にメリーゴーランド、ゴーカートと定番を巡り、そして屋内式のジェットコースターへと至る。ここまでは二人もついて行ったが、それからがレリーの本領というものだった。
 彼はどうやら絶叫ものが好きらしく、それも派手に叫べるものを好む。無理矢理連れまわされる身としては甚だ厄介な性質の持ち主だった。

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