遊園地の夜



「機械も何もなし。睡眠導入剤は飲んでるけど、それだけ。私とロートゥがあなたの手を掴んで眠りこけてるのが現実の姿。理解は出来る?」
「そこまでは。手を繋いでいるから入れるというのかね?」
「だって、それしか言いようがないもの。恋するのに原理は必要ないでしょ。それと同じよ」
「……それはまた雲をつかむような話だねえ」
「雲の方が簡単よ」
「確かに」
 エルフは大きく息を吸い込みながら、「なるほど」と口にした。
「これで一通りのことはすっきりした」
 こんな雑な説明でよくすっきり出来たものだと、当事者ながら感心したロートゥとレリーの二人は、しかし、ようやく勢いに乗ってきた現状の流れを止めたくはなかった。よかったです、と無難に返して次に進む。
 ロートゥはエルフの腕時計を示した。
「今、何時ですか」
「……七時過ぎだね。君たちは時計を持っていないのかい?」
「人の夢の中ですから、夢の主人の都合で俺たちの状況も変わるんです」
 レリーも辺りを見回しながら言った。
「ここは遊園地だから、時計なんて無粋なものはあっちゃいけないとか思ったんじゃないの? わかるわーそういうの」
 エルフは腕時計と二人を見比べた。
「じゃあ、どうしてわたしは腕時計を持っているんだね?」
「決まってるでしょ、あなたの都合だからよ。遊園地の客は楽しむものだから時間を気にしちゃいけない。でも、自分は時間を気にしなければならない」
「……つまりそれは?」
 レリーは眉をひそめた。
「にぶいわねー。仮にも小説家なんだから、小道具の使い道くらい把握しなさいよ。時間を気にする必要があるってことは、誰かと待ち合わせしてるからに決まってるでしょ」
 エルフは目を丸くする。
「わたしが? 夢で? ……誰と?」
「私たちが知るわけないでしょ」
 レリーは頬杖をつく。その横顔を電飾の光が彩った。
「この夢を作ったのはあなた。その辺のお客も、このコーヒーの味も、花火の色も打ち上げの時間も、全部あなたが決めているの」
「だが、わたしは卒中で倒れたんだろう?」
「あのねえ、夢が意識的に見れるなら誰も苦労しないわよ。夢は記憶のごった煮なんだから。制作総指揮は無意識ってやつ」
「じゃあ、この夢も、君たちが言うわたしの都合というやつも、わたしの記憶や無意識が行ったことなのかい」
 ロートゥは頷いた。

- 177 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]




0.お品書きへ
9.サイトトップへ

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -