遊園地の夜



 ロートゥは苦笑して手を振る。レリーもこの底抜けな能天気さには苦笑いを浮かべて答えた。
「それを言ったら、皆に昏睡してもらわなきゃならなくなるでしょ。私たちの仕事は夢を見せる仕事じゃなくて、夢から抜け出させる仕事なんだから」
「しかし空想家には夢のような場所だよ」
「だから、ここはあなたの夢なんですよ」
「ああ、そうだったね。失礼」
 のらりくらりとかわされ、ロートゥはレリーとは別の意味でこの男が苦手だと感じた。芸術家肌の人間は独特の個性を持つからこそ、その芸術性を確立出来るのだろうが、それと反比例して人並みにも満たない能力がいくつかあるのではないかと思わせる。普段は才能がそれを隠しているために見えないだけの話で、その才能の片鱗に一ミリたりとも心の琴線を振るわすことのない人間から見れば、才能のベールは霞程度の効果しか持ちえない。
 ロートゥはどちらかと言えばそういう人間であり、そしてロートゥのような人間こそ彼らの仕事には向いていた。レリーはその対岸に立つ人間で、本来ならばこの仕事に向かないとされる人間である。だが、男性でも女性でもある心の持ち方がそのハードルを大幅に低くさせているらしく、腕前は良かった。
 いいですか、とロートゥは改めて自分たちの仕事と現状の解説を試みる。
「あなたは一時間ほど前、卒中で倒れて昏睡状態にあります。そこで俺たちが呼ばれて、あなたを目覚めさせる手伝いをすることになりました」
「そう、そこだ。君たちを呼んだ妻の仕事ぶりには敬服するが、どうして君たちみたいな特殊な業者が今まで表ざたにならなかったのか不思議でね」
 ロートゥは三白眼で見つめる。
「そりゃ、気味悪いからに決まってるでしょう」
「そうかね?」
「自分の夢の中を覗き見されるんですよ。他人に。俺なら死んでも嫌ですね」
「そういう考えだから、この仕事が出来るというわけか……」
「ともかく」
 ロートゥは大きく咳払いをし、話の軌道を戻す。
「あなたの体は危険な状態にあります。早急に目を覚まさなければいけません」
 ふむ、と真剣みに欠ける声でエルフは頷き、先生に発言を求める生徒よろしく手を挙げた。
「ここは、わたしの夢の中なんだね。昏睡状態の人間の夢ということかな?」
「走馬燈というのがあるでしょう。あれの端くれみたいなものです」
「なるほど。では、その夢に入り込む君たちはどういう技術でもって入り込んでいるのかね?」
「最初に説明したの忘れちゃった?」
「これは失礼。何しろ死にかけの脳細胞なものでね」
 レリーの呟きにエルフはにっこりと応じた。通常なら紳士的な言動に心躍る瞬間ではあるが、エルフ相手にはそのときめきが冬眠を決め込んだようである。ロートゥに視線で説明を促され、レリーは口を開いた。

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