「逆人形」



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 地面に怒りをぶつけるように歩いていたが、荒々しかった足並みも次第に落ち着き、周囲を見回す余裕がもどる。

 その時、綺麗な家々の中にあって異彩を放つ家が目に留まった。門構えからして古めかしく、背伸びしても窺えないほど高い垣根は長い。庭の木々に隠れるようにして見える家の屋根が大きく見えた。

 こんな家があっただろうかと記憶を掘り下げていると、不意に声をかけられ心臓が跳ね上がる。今日だけで一体どれほど驚いたのだろうと少しうんざりした。

「誰だ、お前」

 声に警戒心が混じっている。門の前で黒いランドセルを背負った少年が嵐を睨んでいた。敵意はなく、純粋な警戒心からくる険を含んだ目に安堵する。むやみやたらな敵意は学校だけで充分だった。

「ちょっとびっくりしてた」

 嵐より一つ二つ年上に見える少年は微かに警戒心を解いた。

「何に?」

「こんな大きい家があるなんて知らなかったから」

「お前この近所じゃないの?」

 首を横に振る。

「こっちはあまり歩かない。近所だけど」

「ふうん。変なの。俺んち有名なんだぞ」

 少年は淡々と答える嵐に興味を持ったようだ。対して嵐は警戒心を強めていた。あまり自分のことを根掘り葉掘り聞かれるのは困る。聞かれるがままに答える嵐にも責めはあるが、聞いておいて勝手な憶測を並べ立て、触れ回る周囲の人間に嵐は辟易していた。

 要は面倒だったのかもしれない。

「でかいし、古いし。……ああ、じゃあお前、頓道だろ」

 嘆息と共に、うん、と頷く。

「何でわかるの?」

「近所にうちより古い家があるって聞いたことあるし。そこの家が頓道っていうのは皆知ってるぜ。だから」

 納得しかねる説明にとりあえず感心した風に頷いておく。

「あ、じゃあ、あれか。四年の霊感少年ってお前?」

 話の向きが嵐にとって面倒なことになってきた。早くこの場を去りたい。

「うん」

「へえぇ」

 少年は門の前から嵐の方へ少し近付き、しげしげと嵐を見やった。

「俺、六年なんだけどさ、四年に変な名前の霊感少年がいるって噂がすげえの」

 ああだから、と嵐は一つ納得する。教室を覗きにくる生徒の中には明らかに年長とわかる人間が何人かいた。六年生にまで噂になっているのなら、学校中に嵐の噂があることないこと振りまかれているのはほぼ間違いない。

「祟るってホント?」

――確実だな。

「そんなこと聞いて、本当に僕が祟ったらどうするの?」

 好奇心ばかりしか見えなかった少年の目に初めて恐怖が映る。

 これで嵐は友人の大半をなくしてきた。後々知らなかった、で責められるよりもずっといい。


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