その一連の動作は何故か見ていてどきどきする。
跡部の鞄にはいつも違和感なく入っている、それ。
例えば、一緒に部屋に居るときもそれは常備してる。今もそうだ。リビングのソファの上で跡部は唇を何度か舐めて、眉を潜めるとそれは制服のポケットから出てきた。
「…なぁ、」
「あん?」
リップクリームを塗る直前で声を掛けて、跡部の視線を向けさせる。
リップクリームを口許に持ったままで、怪訝に眉を寄せている。
その仕草がたまらなく好きだったりする。
「最近やけにそれ増えてへん?」
リップクリームを指差して言えば、あぁと返事をしてそれを唇に塗り始める。
「最近やけに荒れるんだよ」
「荒れるん?そないにしとるのに、か?」
学校に居る時も部活の時もここに居る時も気付けばしてるくらいなのに。
「俺、してへんけど荒れる事あらへんよ?」
「…」
そう言うと何故か睨まれた。
「何…?」
「…別に」
「嘘や。何か言いたたい事あるやろ」
跡部のリップクリームを持っている手首を掴んで、視線を合わせた。
「…お前のせいだろ」
「俺?」
訳がわからず首を傾げると、肩を掴まれて顔を寄せられた。目の前にはリップクリームで潤った唇。思わず唾を飲んだ。
「…あ、跡部?」
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