金髪のラエルが淹れてくれたコーヒーは本当に美味しかった。それに、カイトが出してくれた焼き林檎も、甘さが控えめでとても美味しい。
「なんだかすっかりご馳走になっちゃったな」
少し膨れた腹をさすりながら、明良が満足そうに言う。
嵐もコーヒーをすすりながら、同意の意味をこめて数回頷く。
「いえ、こちらこそ、お二人にはすっかりお世話になってしまいましたから」
「本当にありがとうございます」
ラエルとカイトに次々に綺麗な笑顔を向けられて、二人は何だか照れくさくなってしまう。困ったように笑いながら頭を掻く。
すると、
「お二人に、もう一つだけお願いをしてもいいですか?」
穏やかだが真剣な瞳でそう言われて、二人は何だろうと首を傾げる。
ラエルはにこりとほほ笑むと、その視線を神儺と女の子へ向けた。神儺はすぐに心得顔で頷いて、女の子に言う。
「その四つ葉、お母さんに届けるのでしょう?」
「うん。お母さんと約束したんだもん」
女の子はにっこり笑いながら頷くと、手に持っていた四つ葉を、嵐と明良に差し出した。明良が何気なくそれを受け取ると、
「お兄ちゃん、お願い。お母さんに、『元気を出して。美優(みゆ)は、お母さんの笑った顔が一番好きだよ』って伝えてくれる?」
「え?それなら自分で――」
言いかけた明良の脇腹を、嵐が慌てて突く。
「何だよ?」
「いいから…」
文句を言う明良を制して、嵐は女の子に笑いかけた。
「俺たちが持っていればいいんだね、美優ちゃん?」
「うん、大丈夫。明日にはちゃんと届くと思うから」
「そっか」
「うん」
嵐が言うと、美優は満面の笑みを浮かべた。
「いいのか、あんな約束して」
ラエルとカイトと神儺、そして美優に見送られながら『猫目堂』を後にして、車が走り出した途端、明良が恨めしそうに嵐を睨みつけた。嵐はじっとバックミラーに映る『猫目堂』の建物と四人の姿を見つめながら、
「いいんだ」
ぼそりと呟いた。
バックミラーの中で、『猫目堂』の建物がだんだんと小さくなっていく。それと共に、周りの風景もうっすらとぼやけ始め、白い霧が立ち込めてくる。
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