(こんな山奥で商売?)
 車から降りながら、嵐と明良は思わず顔を見合わせた。
 すると、
 「遅かったね、神儺(かんな)」
 木の扉が開いて、店の中から綺麗な顔をした黒髪の青年が出てきた。
 青年は、嵐と明良の姿を見て、琥珀色の瞳を一瞬だけ丸くした。
 「お客様かい?珍しいね」
 笑いながらそう言う青年に、
 「四つ葉をさがしてもらったの」
 女の子が嬉しそうに言って、嵐からもらった四つ葉を青年に見せる。それを見て、青年はにっこりほほ笑むと、嵐と明良に向かって丁寧に頭を下げた。
 「ありがとうございます」
 「あ、いえ…」
 「よければ、お礼にコーヒーでもご馳走させてください」
 そう青年に言われて、
 「そうですね。カイトとラエルの淹れてくれるコーヒーはとても美味しいんですよ」
 少女――神儺にも笑顔で促されて、二人は遠慮がちに木の扉をくぐった。

 カランカラン……
 ドアベルが澄んだ音を立てて、木の扉がゆっくりと開かれる。
 その瞬間、中から暖かくて新鮮な空気とコーヒーの芳香がゆうらりと漂ってくる。
 「いらっしゃいませ」
 カウンターの中から声をかけてきたのは、金髪に青い瞳が印象的な、これまた綺麗な顔をした青年。その花のように清らかな微笑に、嵐と明良は思わず見惚れてしまう。
 「さあ、どうぞ」
 そんな二人をカウンター席へと案内して、黒髪の青年――カイトはカウンターの中へ入っていく。二人が座ると、神儺と女の子もカウンター席に座った。

 「コーヒーでよろしいですか?」
 金髪の青年に訊かれて、嵐と明良は無言で頷く。
 いったい何と表現したら良いのだろう。この『猫目堂』という店も、店員の二人の青年たちも、どこか浮世離れしていてこの世のものとも思えない。けれど、それは決して嫌な感じではなく、あたたかく、そしてどこか懐かしく、ここにいるととても気分が落ち着くのが分かる。
 (そう言えば、最初にこの子を見たときにもそういう感じがしたな)
 傍らに座る神儺の横顔をさりげなく見つめながら、嵐は心の中で呟いた。


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