「大丈夫。見つかるまで付き合ってやるよ」
明良が励ますように笑ったが、女の子の表情は固いままだった。
「なあ、そんな泣きそうな顔するなよ」
困ったように明良が言うと、女の子は少しだけ顔をほころばせて、明良を見つめた。
「ありがとう、お兄ちゃん」
だが、
「そろそろ時間です」
いきなり声をかけられて、嵐と明良は驚いて振り返った。
少年のように短い髪と切れ長の黒い瞳が印象的な少女が、三人をじっと見下ろしていた。
その少女を見た瞬間、嵐はかすかに眉をひそめる。
(この少女は――)
おそらくこちら側の者ではない。けれど、いつも嵐が相手にしているような輩とも明らかに違う。この感覚はいったい何だろう。
「お願い、もう少しだけ」
女の子が涙ぐみながら懇願すると、少女はちょっとだけ悲しそうに顔をしかめた。だが、その口から出た言葉は容赦のないものだった。
「残念ですが、もう時間です」
「――!」
女の子のあどけない顔がぐしゃりと歪んだ。
「なあ、ちょっと待ってくれよ」
思わず明良が立ち上がり、抗議するように少女を見つめる。
「あんたさ、この子のお姉さん?遅くなるのが心配なのは分かるけど、もう少しぐらい待ってやんなよ」
「……あなたたちは?」
少女はちらりと明良に視線を送ってから、まっすぐに嵐を見てそう質問してきた。嵐はひょいと肩をすくめて見せると、
「通りすがりのものです」
平然とそう答える。
少女は困ったように首を傾げ、嵐を見て、明良を見て、最後に女の子を見つめた。少女の背後が、夕陽でオレンジ色に染まっていく。
「約束したはずです。今日一日、陽が暮れるまでの間だけだと」
「……」
「これ以上ここにいても、どうにもなりませんよ?余計辛くなるだけです」
「……」
少女の言葉に、女の子は答えない。ただぎゅっと唇を噛み、泣きそうな顔で俯いているだけだ。
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